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ロウアー物語 2025.2.22

<プロローグ> ―3―

ロウアーはただ窓の外を眺めながら、サリーの作業が終わるのをじっと待っている。柵がないのだから、逃げようと思えばいつでも逃げられるのに、ロウアーたちはそんなことを考えもしないようだ。確かに、ここから逃げても行くあてなどないだろうし、見つかれば殺されてしまう可能性だって高い。黙って乳さえ差し出していれば食べ物を与えられる今の環境を考えれば、ここから逃げることなど思いもよらないのだろう。ロウアーにだってそれくらいの知恵はある。

もちろん、すべてのロウアーがこんな住みやすい環境で暮らしているわけではない。狭い場所にぎゅうぎゅう詰めにされているロウアーがほとんどだろう。そのうえサリーは獣医師免許を持っており、ロウアーのケガや病気の治療も行っていた。ウエスト家の家畜舎を見学した人たちは、ロウアーのためにここまでする必要はあるのだろうかと、皆一様に首を傾げた。

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