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時間を暖める女の物語

私は三十六歳で結婚しました。相手は会社に出入りしていた取引先の営業担当者で、私より二つ年上です。彼が子供を欲しがっていたので、付き合い始めて半年で結婚しました。しかし、結婚して二年が過ぎても、なかなか子供に恵まれませんでした。医者にも相談したのですが、夫婦ともに問題はないようなのです。子作りにご利益のある神社にも参拝しました。やはり駄目でした。もうすぐ四十歳になります。残された時間は少ししかありません。子供を欲しがっている夫にも申し訳ない気持ちでいっぱいです。

最後の頼みに占い師に占ってもらうことにしました。占い師は私に驚くことを言いました。
「一日は二十四時間と決まっていると思っているでしょう。それを誰も信じて疑いません。しかし、実は男性と女性では一日の時間の長さが違います。女性のほうが男性よりも時間を多くもらっているのです。何のためだかわかりますか?それは赤ちゃんを生むためです。女性は余分にもらった時間を体の中で暖めています。そして体の中で暖めた時間はゆっくり育ち、増えていきます。暖めて増えていった時間で、生まれてくる赤ちゃんの寿命が決まります。だから女性が男性より多く時間をもらっていたとしても、それで喜んでばかりはいられません。女性には生まれてくる子供のために時間を暖めて、それを育てる責任があるのです」
占い師は続けました。
「あなたの体の中には時間があまり貯まっていません。あなたは余分にもらった時間を暖めることを怠っていたのです。だから、子供が生まれないのです」
「では、私はもう子供を作ることができないのですか?」
私はショックで倒れてしまいました。そんな私をかわいそうに思ったのでしょうか、占い師が私に言いました。
「今からでも遅くはありません。時間を買えばいいのです。金額は高いですが、時間は買えるものです。そして買った時間を、大事に暖めて増やしていけばいいのです。このサイトを見てください。このことはぜひ内密にお願いします」

家に帰って、早速教えられたサイトを開いてみました。そこには「時間売ります」と書かれていました。金額は想像以上に高かったので、夫が帰ってきたら相談することにしました。

夫はどうしても子供が欲しいと言いました。そのためには貯金を投げうってでもかまわないとまで言いました。しかし、それでは子供ができてからの費用がなくなります。私自身も子供が欲しいので、会社を辞めて退職金で時間を買うことにしました。

サイトで買った時間を体の中で暖めました。栄養のあるものを食べ、お日さまにもあたるようにしました。少しずつ私の体の中で時間が増えてくるのが実感できるようになりました。三か月後には下腹部が膨らんできました。六か月後にはだいぶお腹の中の時間も大きくなってきました。十か月目にはお腹が大きくなりすぎて、体を動かすのもきつくなりました。そしてそれから十日後、待望の赤ちゃんが生まれました。元気な泣き声をあげています。3600グラムの立派な赤ちゃんです。夫も大喜びしてくれました。この赤ちゃんの中には、私が一生懸命育てた時間が蓄えられていると思うと、感動もひとしおです。きっとこの子は長生きしてくれるでしょう。早く自分の両親と夫の両親にも会わせてあげたいと思っています。

確かに若い頃は、自分が結婚して子供を生むことに、あまり現実味が感じられませんでした。若いうちはやはり遊びたい、家事や育児で大切な時間を奪われたくないと思っていました。自分の時間は自分のためだけに使っていました。そしてそれを当たり前だと思っていました。まさか余分にもらっていた時間まで使っていたなんて、想像したこともありませんでした。でも、女性のほうが男性より時間を多くもらっていたことなんて、まわりの人だって知らないはずです。だって、女性同士で話していても、時間を余分にもらっているなんていう話題が出たことは一回もありませんから。昔の女性はみんな知っていたことなのでしょうか。誰からも教えられなくても、遺伝子にその情報が組み込まれていたのかもしれません。しかし、少子化が進むうちに、その情報は遺伝子から抜け落ちてしまったのでしょう。それならば、私がこの情報を伝えなければいけません。そうしないと少子化はますます進んでいくでしょう。

もしあなたも将来子供が欲しいのならば、余分にもらった時間を無駄に使うことをせず、自分の中で暖めていってください。自分の中で増やしていってください。そうすれば、その子供は元気で長生きできるでしょう。


 

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