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歪んだレンズ《超短篇小説》

ある日突然、目がおかしくなった。

モノを見ると、そのモノがお金に変わって見えるのだ。それもどうやら売価らしいと気づいた。

ある骨董品屋でキレイな壺を見た。すぐに壺は二百万円に変わった。店主に値段を聞いてみると、やはり壺の代金は二百万円だった。

またあるときは、輸入モノの椅子を見た。椅子は一千万円に変わった。驚いて札束を数えてみたが、やはり一千万円ある。こちらも店主に聞いたら「一千万円です」と言われた。

こんなことが続いたので、近所の眼科へ行った。目には異常がなかった。医者は「とりあえず目薬を処方しときましょう」と言って、処方箋を書いた。もちろん目薬で治るわけはなかった。

次に精神科に行ってみた。医者は脳波を調べたが、異常は見られなかった。「うちに通院してください。これで論文が書けるかもしれない」と医者は言った。もちろんそこには2度と行かなかった。

どうせならば適正価格が見えればいいのに、と思っていたら、突然今度は適正価格のお金が見えるようになった。

そこで前に行った骨董品屋を覗いてみた。壺はまだ売れ残っていた。そして壺は千円札1枚と五百円玉1個に変わった。

びっくりして今度は輸入家具屋へ行った。一千万円で売っていた椅子は、なんと八十万円に変わった。なんだか店主の顔もニヤけて見え出した。

世の中が信じられなくなった。厭世自殺する前に、誰か僕の病気を治してください。

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