流れ着くサルガッソー
今日もサルガッソーは漂着物を拾っては成長していく。
昨日は海上トーチカの破片、一昨日は錆びたグレムリンのパーツ。
そのサルガッソーが分解する前に”少しだけちょろまかす”。
ココガと呼ばれる男は、そうして生きている漂掘人の一人だ。
油の抜けたぼさぼさの髪は、暖を取るためだけに伸ばしている。
手入れのされていないハタキのような髪は潮風に揺れた。
金属の指で帽子を深くかぶりなおす。
ココガの体の9割以上が、今時の新生体部品よりも2、3世代以上前の骨董品だ。
心臓の代わりに炉心が動く。食事の代わりに油を注す。
その油を分解される前の漂着物のタンクから抜き取っていくのが彼の日課だった。
(……最近は使われてる油も質が良くないな)
粉塵が舞い始めてからは物資も限られてきたのか、漂着物の質も落ちてきていた。
修理用のパーツも、粗悪品では流用もできない。
安定して数日稼働し続けられるかも怪しい日々が続いている。
またいつかやったように機能をスリープさせて長期停止してもいいが、
この世界のありさまでは次目を覚ました時には海の底、でもおかしくない。さすがに嫌だ。
221回目の再起動後の世界はグレムリンとかいう兵器が海を我が物顔で飛んでいる。
漂掘人仲間の何人かも、夢を求めて、あるいは夢に浮かされてグレムリンに乗ってこのサルガッソーを去っていった。
ロートルのココガにはその良さはわからない、それよりも、自分と同じように過去からしぶとく生き残っているこのサルガッソーに愛着がわいていた。
『侵入者を発見。ネコである可能性…5%』
きっとこの警告も、220回目の自分や、219回目の自分も聞いていたのだろう。
再起動は余分なメモリを削減した状態で行うので、大半の記憶領域は失われる。
『ネコを発見。』
最近はガタが来ているのか、重要な記憶も一緒に抜け落ちているのを感じる。個体情報であるとか、自分が何であるかとか。
(くしゃみをしたら火が出たのには驚いたな)
自分の機能も、スペックも、もうぼんやりとしか把握できていない。
『侵入者を発見。』
きっとサルガッソーも、そうなんだろうとココガは思う。継ぎ足し残った、歪な城。
情勢が落ち着いて再起動を行って、また目覚めた時に。
222回目の自分がまだサルガッソーにいられたら、それはいい。
そう思い目を閉じた。それはスリープではない、小休憩。