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ガレージの片隅

『おはようございます。今日の電磁波はー~√V、ノ……└───%デす』

いつもと変わらない音声を発する機械が床に転がっている。
環境計測器であったその機械は、粉塵の舞う今はもう本来の役割をなくし、今は目覚まし時計としての役割を果たした。

「……ああ、もうこんな時間か」

床に落ちている白い毛の塊、、、と化していた男は冷たい鉄の床から身を起こし、眼鏡の位置を直した。

もちろん自分の身を横たえるべき部屋ではない。かといって知らない天井でもない。

そこは、よく男が寝起きをしている、ガレージの片隅だ。横には男のグレムリンが静かに佇んでいる。

「今日は、……出撃するんだったな……」

節々を鳴らしながら立ち上がった細身の体は、あまり前線向きではない。いわゆる研究者然とした男だが、見た目に似合わず一応グレムリンテイマーらしい。
寝起きにグレムリンのメンテナンスを始めたこの男が、その居住まい似つかわしい研究棟から出奔したのはもうだいぶ前のことになる。

その施設は過去の遺物を解析し、技術を回収する組織だった。
魂の抜けたブースター、生物兵器が生み出されていたであろう殻。
輝かしきとされる偉大なる過去の情景を、廃墟から一握りでもつかみ上げようとする施設。
粉塵以外のものが水分を吸着し、吐き出すためのエジェクター。
何かはわからないが、今の世界には完全に失われてしまっているものがあることを、男は知った。
それはいわゆる神だったのかもしれない、と気づいて。
そこそこ快適な環境だったはずの研究棟を飛び出して、どれくらい経ったことだろう。

窓のないガレージからは見えないが、今も天上には神々と呼ばれているものが光り輝いている。

あの研究棟に未来はなかった。過去の栄光にすがり、回想するだけの施設。

このガレージには過去はない。誰もが跡を残さず去り、また新しい誰かが流入する。

エアーフィルターを通った空気が、男の長髪を揺らした。

つまりは、男の、研究者としての好奇心はガレージを選んだ。それだけである。

モニターを確認し、グレムリンを起動する。

     ナ マ エ ドシ ヨ ー
───UnNamed Gremlin───

いつのまにか共にいた、何にでもなれるグレムリンに男は名前をつけなかった。

……決して名前が思いつかなかったわけではない。との言である。

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