トンニャン過去編3 クック
※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
どうしてこんな事ができたのだろう。ずっとオーラを想い続けてきたのは、クックの方ではなかったか。
しかし、クックの足は吸い寄せられるように動いていた。泉に向かって・・・。
泉に着くとクックは顔を突っ込んで水を飲んだ。そして顔を上げると頭を震わせて濡れた髪の水気を飛ばした。その時、月明かりがクックと泉の周りを照らした。そしてその光によって映し出されたのは、あの少女だった。
「きみ・・・。」
クックは、今度は顔を上げても消えずにいる少女を見つめた。少女はクックを見て、微笑んでいる。クックはゆっくりと立ち上がると、月明かりに輝く少女に近づいていった。
クックが少女の前に立つと、月がかげり始めた。
「いけない!」
声を上げてクックは少女の腕をつかんだ。少女が逃げようともがく。
「行かないで!」
クックは叫んでいた。もしこの腕を放したら、今度いつ会えるかわからない。
月が雲に隠れてしまうと、あたりは闇と化した。クックはいつしか少女を抱きしめていた。そして少女も、もう逃げようとはせず、クックの胸で小さく息をしている。
「・・・俺は、クック。ふもとの村に住んでいる。きみは・・・どこから来たの?」
少女は答えない。
「いつか、泉に映っているきみを見たよ。あの時どこにいたの?探したんだ。あれから、きみが忘れられなくなって・・・。」
クックはそこまで言うと、身体中に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。少女にクックの気持ちが伝わったのか、ゆっくりと顔を上げた。そして見えない世界で、少女の柔らかな唇が彼のそれに重なった。
やがて再び月が雲から離れ地を照らしても、二人の影は重なったまま動こうとしなかった。
緑色の朝が訪れた。木々の間からこぼれ落ちる光でクックは目を覚ました。いつの間にか眠っていたのだ。少女は寄り添うようにかたわらにいた。クックの動く気配で彼女も目を覚ました。
クックは急に恥ずかしくなって、少女から目をそらした。
「・・・昨日の事、怒ってる?突然あんなことして・・・」
少女は不思議そうな顔をした。クックはそれを盗み見ると、ホッと息をついた。
「わからないなら、いいんだ。怒ってないんだね。良かった」
クックは少女の白い手を握った。
「俺の気持ち、わかってくれたんだね」
少女は恥らうようにうつむいた。クックの心も羞恥心でいっぱいになり、少女から手を離して下を向いた。
一瞬の後、クックは少女を再び見失った。クックが顔を上げた時、少女はもうそこにはいなかったのである。
しばらくして、クックは村でたいまつが燃えるのを見た。
「昼間から?まさか!」
それはオーラの生贄の日が早まった事を伝えていた。クックは、村の広場に向かって走り出した。
広場に着くとすでに大勢の人が集まっており、その中央の炎のそばに美しく着飾ったオーラの姿があった。
そしてその隣には、長老亡き後村の権力を握った占い師の老婆が立っている。
老婆が合図をすると、オーラは花が敷き詰められた籠に乗せられ、屈強な若者達が籠を担ごうとした。
その時オーラとクックの視線が交差した。オーラの目はあきらかにクックを責めていた。
突然後ろが騒がしくなった。クックが振り返ると、人ごみをかきわけてやってくる少女が見えた。少女はオーラと老婆の前に行くと、静かに口を開いた。
「私が、代わりに生贄になりましょう」
人々はどよめき、クックも息を飲んだ。
「だめじゃ。これは神のお告げ」
老婆は少女を押しのけようとしたが、少女は譲らなかった。
「では、もう一度占ってください。その山の神が何と言うか。
私を見て、神の気が変わったかもしれない」
老婆は抵抗したが、村人が騒ぎ始めた。群衆の中から、もう一度占え、と言う声が響いてきた。
「もう一度占う事は村人の総意」
老婆は自尊心を傷つけられ、憤りを抑えながら、火に向かって呪文を唱え始めた。やがて、呪文を唱え終わると、脂汗を流し、青白い顔をしながら振り返った。
「し・・・信じられない事じゃが、山の神はオラではなく、この娘を欲しがっておる・・・」
続く
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