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トンニャン#40 魔女裁判長リリス

※この物語は、「阿修羅王」編、「アスタロト公爵」編の、本編です。
「リリスの巻」のような意。話の位置は前回の「ウェヌスの巻」の続きです。
なお、この物語で「現在」「今」という場合は「日本民族が滅びてから約1000年後」のこと。つまり、今から何千年後かの未来です。
また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

リリスは急に立ち上がり、バン!と音を立ててテーブルに両手をついた。
「何さ!いつも、いつも、冷静ぶって!私の話なんか、一度としてまともに聞いてくれたことなどないじゃない。私がどんな思いで、あなたの妻をやっていると思うの?」
ルシファーは初めて目を動かして、片ひじをついていた手から顔を浮かせた。

「何が、コーラを愛しているだ。ふざけないで!妻の私に一度も言った事ない言葉をほかの女に言うなんて、無神経すぎる。
私がほかの男の子供を生んだはらいせ?自分も同じ事してみたかった?
それなのに、リオールに奪われた後は、まるで何もなかったみたいに。
コーラには一度も手を出してないって何?女と一年も一緒に暮らして、そんな言い訳通じると思うの?」
「どこから聞いた?コーラとわたしの事を?」
リリスはハッとして口に手をやった。

「使い魔に調べさせたな?」
「・・・だったら、何だって言うんだ。そりゃあ、私は今までもこれからも、いろんな男の子供を生み続けるだろう。だけど、そんな女が、夫に嫉妬しちゃおかしいのか?
夫というのは自分のものだろう?だったら、ほかの女に取られて嫉妬しない女がいるのか?そんな女がいたら、お目にかかりたいよ!」
リリスは一気に話すと、大きく息をつきながら椅子に座った。
ルシファーは自分の椅子から立ち上がり、テーブルを回って、リリスに近づき、腰を落としてその手にふれた。

「産後間もないのに興奮するからだ。疲れているのだろう。もう、眠った方がいい」
リリスはもう片方の手で、自分の目を隠した。
「なんで、そんな事言うんだよ。私がほかの男の子供を生んだのをわかっているくせに」
ルシファーはリリスの手をさすっている。
「それはおまえのせいではない。前の夫と別れる時に与えられた罪。
おまえの前夫と次の妻を作った方が、おまえに永遠に与えた罰だ。
それを知らぬ者など誰もいない」
リリスがもう片方の手を目から離した。その目からは、大粒の涙が流れていた。

「リリス・・・」
ルシファーは立ち上がって、リリスの頬に口付けた。
「リリス。何も言わなくても、わかっているのが夫婦だと思っていた。
わたしはおまえの罪を知っていて、おまえの夫になった。
おまえはたくさんの悪魔や魔女を産んでくれて、わたしの世の平穏に努めた。わたしはおまえに甘えていたのかもしれない。
コーラの事ははらいせなどではない。おまえがほかの男の子供を生んでいるを黙って許しているのだから、わたしもおまえに許されると思っていた」

「やめて!ルシファー!勝手なのは私の方だ。
私の方がたくさんあなたを裏切っているのに、何故私はあなたのただ一度の事を許せないのだろう。私は身勝手な女なんだ。
こうしてほかの男の子供を生んだ後にまた、夫を責めている。
コーラのように、男なんだから、と夫を許し貞淑な妻になりたいのに!」
ルシファーは、すっとリリスを抱き上げると二人の寝室に向かった。
「ルシファー、何を?」

リリスは初めて男に抱きかかえられた女のように、少し頬を染め、不安そうにルシファーの顔を見上げている。
ルシファーは、そんなリリスに微笑みかけると、新妻を迎えるように、寝室のベッドにそっとリリスをおろした。
 二〇〇六年平成十八年八月二十日(日)

ありがとうございましたm(__)m
※リリスとウェヌスを対比させると、同じように夫がいながら、たくさんの他の男の子供を生み続けているという共通点が見えます。
またそれぞれの道で頂点に立つ者でもあります。
しかし、それぞれの事情や立場は実際には大きく違います。
女として、あなたならどちらに気持ちが動きますか?

トンニャン#40 魔女裁判長リリス

【「炎の巫女」全国配本書店名110店舗はこちら
https://note.com/mizukiasuka/n/ne4fee4aa9556 】

※トンニャンが全部読めるマガジンはこちら
https://note.com/mizukiasuka/m/mf04f309d9dfc

本来の「リリス」次は、書籍化された「阿修羅王」1話~3話で。
「力の神インドラ」「猿神ハヌマーン」「シッタルタ」の3話。インドの神様のお話になります。しかし、書籍収録のため、次回は、その次の話

次回トンニャン#41 太陽神アポロンへ続く

前回トンニャン#39 魔女裁判長リリスはこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n3dc47a12c097

最初からトンニャン#1は
https://note.com/mizukiasuka/n/n2fc47081fc46

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