トンニャン#8 悪魔皇太子リオール(クビドと対の天使)
※この物語は、「阿修羅王」編、「アスタロト公爵」編の、本編です。
「リオールの巻」のような意味。話の位置は、アスタロト公爵の#10の直後のお話です。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
「まず、トンニャンなんだが、最初は少年が見えた。
なんていうか、昔あった日本という国の縄文時代の服装のようだった。
その少年が、たぶん転生したのだと思うが、次に二十世紀後半のアメリカにいたようだ。綺麗な顔立ちをした少年だった」
そこまで言って、リオールはアシュラとトンニャンの顔色を伺った。
だが、二人はいたって冷静だ。
リオールは首をかしげながら、今度はアシュラについて話した。
「アシュラの心に見えたのは、長い黒髪の少女だった。
白い、たぶん絹か何かでできた薄い生地の、足元まで隠れる簡素なデザインの衣装を着ていた。
美少女というのはあんな感じをいうのかな。」
「コーラより、美人だっただろう?」
「・・・否定はしないが・・。それより、おかしくないか?」
「何が?」
アシュラとトンニャンがまた、口を揃えて言った。
「だから、以前の事はいいとして、今の心には、本来お互いが見えるはずじゃないのか?」
リオールの言葉に、アシュラもトンニャンも声をあげて笑った。
「な・・・何が、おかしいんだ?」
「青いな、リオール。」
トンニャンは腹を抱えて笑っている。
「愛の絵空事を語れるおまえが、うらやましいよ」
そう言いながら、アシュラも笑いが止まらない。
「な・・・何だよ!言わせといて!」
リオールは一人で怒っていたが、アシュラとトンニャンの笑いはしばらく止まらなかった。
「悪かった、笑ったりして」
ひとしきり笑いが過ぎ去ると、トンニャンはまた冷静な話し方に戻った。
「間違いなく、おまえにはわたし達の心の奥が見えたようだ。
だが、それはまだ封印しておいた方がいいな。」
トンニャンは、アシュラと位置を交換し、リオールの隣に立った。
「少しの間だけ、宙に浮いていろ。すぐ済む」
トンニャンはリオールを宙に立たせると、その胸の辺りに手をかざした。
トンニャンの手から円い光が見え、手の平で渦巻いたかと思うと、すうっとリオールの胸の中に入っていった。
「もういいぞ。先を急ごう」
「何故、また見えないようにしたんだ?」
リオールは自分の胸の辺りをさすりながら、不思議そうに首をかしげた。
「おまえは、まだ大人になりきれていない。
それはおそらくクビドと同じ、本当に好きな人が見える力だろう。
だが、クビドの矢は、心の奥に好きな人が見えても、必ずその相手と結びつけるわけじゃないんだ。
必ず、相思相愛とは限らんからな。
だから、本当に好きな人ではなく、誰と一緒になったら幸せになれるのか、きちんと見極めてから、矢を放っている。
人間の短い一生にとっては、大切な事だからだ」
「幸せになれる相手?」
「そう。彼は生まれた時から、そういう勉強や訓練をしてきている。
だから、愛の天使クビドなのだ。
だが、おまえは突然この力を身につけ、どうしてよいか、わからなくなっている。
それは危険な事だ。
必要のない力は持っていても不幸だ。
とりあえず封印しておいた。
悪魔にとって必要なのかわからないが、もっと大人になれば、利用できる術も身につくかもしれない」
リオールは不満そうにぶつぶつなにか言っている。
「リオール、おまえ、自分の城に帰って、その力でコーラの心を見たいのか?」
リオールは複雑な表情になった。
確かに、コーラは正式にリオールの妻となった。
しかし、もともとルシファーの想い人だったのを、リオールが無理やり奪ったのだ。
もし、コーラの心に自分ではない者が映ったら・・・。
「・・・そうだな。耐えられないかもしれないな。
コーラには、父上の事は忘れなくてもいいような事を言いながら、本当はずっとコーラの愛を求めている。
妻にしたからといって、心まで俺のものになったか、わからないし。
・・・知りたくもないな」
「リオール・・・」
続く
ありがとうございましたm(__)m
トンニャン#8 悪魔皇太子リオール(クビドと対の天使)
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https://note.com/mizukiasuka/n/ne4fee4aa9556
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