元祖 巴の龍#44
「妹御は十六か。私と同い年だ」
芹乃が言うと、兵衛は葵を妹と言ったことに後ろめたさを感じた。
まさか同い年とは考えてもいなかった。
だが、その後ろめたさは葵に対してなのか、芹乃に対してなのか、今の兵衛にはわからなかった。
話は妹の歳のことになり、兵衛と芹乃は少しだけ打ち解けた話し方ができるようになった。兵衛は芹乃を家まで送っていった。
家の前で別れると、丈之介が待っていたように出てきた。
「芹乃、いつもより遅いではないか。心配したぞ」
丈之介は男の後姿を見つけた。
「あれは誰だ?」
「客だ。たまたま帰りがいっしょになって、夜道が危ないと送ってくれたのだ」
芹乃は丈之介に嘘をついた。
どう説明してよいのかわからなかった、というのもあるが、芹乃自身が隠しておきたい気持ちになっていた。
それから兵衛は毎日のように鍛冶屋町に出かけた。
洸綱たちには、刀の出来具合が見たいから、と言っていたが、わざと夕方頃に出かけて芹乃の帰る時間に合わせて待っていた。
芹乃は芹乃で、家に帰る道すがら兵衛と話すのが楽しみになっていた。
「迷惑ではないのか」
ある日兵衛がおそるおそる聞いた。芹乃は黙っていた。
「やはり迷惑なのか。もしそうなら、明日から待たない」
兵衛は首をうなだれた。芹乃は兵衛の顔を覗き込むと、ふふっと笑った。
「待たないなんてできるのか?」
兵衛は、あっ、と思った。からかわれている。
「こいつ」
こつんと芹乃の頭を小突こうとして手をあげると、ひょいと芹乃が逃げた。芹乃は子供のように逃げていく。
兵衛もそれを追いかけた。幼き日の鬼ごっこのように走っていく。
少し走った所で、兵衛は芹乃に追いついた。
「ほうら、つかまえた」
兵衛は芹乃を、後ろから抱きしめるように押さえた。
「だめ、汗かいてるから離して」
芹乃がもがきながらそう言うと
「平気だ」
と兵衛が言って、さらに腕に力を込めてきた。
続く
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「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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