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エンドレスヒール#52 -3.11

3月9日(水)震災2日前ーポンペイ展 前日

天気が良いので利用者さんと散歩に行く。
近くの公園、トイレもあるし水も飲めるので利用している。
少し視界の狭いキヨコさんと手をつなぎ、歩く。

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視覚障害者ガイドヘルパーも取得している。
そのための実技、二人組になり、一人はアイマスクをして利用者役、一人はガイド役で地下鉄を往復した。
アイマスクをして何見えない状態で階段・エレベーター、地下鉄の乗り下りは、本当に怖かった。

実際の仕事で、完全に見えないわけではないが、視界が狭い人と歩く時、習ったことが何の役にも立たず、実践との違いをまざまざと知らされる。
あくまで勉強は勉強、資格は資格。持っていても実践で役に立たなければ、絵に描いた餅だ。

それでも何度も一緒に歩いているうちに慣れてきている。
やはり、コミュニケーションと信頼関係は、福祉には欠かせないものだ。

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公園に着くと、それぞれがくつろぎ、あたたかい陽射しにまどろむ人もいる。
元気な人は、ブランコに乗ってみたりもする。
もちろん、ひとりでは難しいので見守りが必要だ。
ひとしきり 時間を過ごすと同じ道を散歩しながら帰る。

帰る時は、違う利用者さんが手をつないできた。
歩くのが早い人だったので、どんどん追い抜いてゆく。
途中で、行く時に手をひいた視界の狭いキヨコさんの横を通り過ぎる時、突然キヨコさんが手をからませてきた。
横を歩いていた職員さんが、チラリとこちらを見る。

「あら、キヨコさん。さっき、私が手を繋ごうとした時、『一人で歩く』って言ったのに、どうしたの?」
キヨコさんは、そのベテランの職員は実はキヨコさんのお気に入り。
最初の頃、和美が手をひいてキヨコさんと散歩した時、途中でその職員を見つけたら、キヨコさんは和美の手を離してしまった。

それぐらい、キヨコさんのお気に入りなのに、今日はどうしたのだろう。
その日、和美は何故か一日、利用者さんにモテモテだった。
普段、あまり話さない人も話しかけてきたり、いろいろな利用者さんが、何も無いのに手を握ってきたりした。

あまりにそんなことが多いので、夕方、別な職員さんに話してみた。
「いつものことでしょ。みんな、ふれたがるでしょ。」
「・・・・私に慣れて来たということでしょうか?」
答えは無かった。

しかし、その3月9日(水)、たくさんの利用者さんが和美にふれあいたがった事実を和美は忘れられない。

3月10日(木)震災前日(ポンペイ展の帰り ファミリーレストランにて)

「わかるんだよ、そういうの。」
「わかるって?」
「まだ、他の職員さんには、辞めるって言ってないんでしょ?」
「・・う・・ん。施設長が、自分から中旬以降に言うから、黙っててくれって。」

「利用者さんは、明確にはわからないかもしれない。でもね、心で感じるんだよ。」
「私が、いなくなるってこと?」
「そう。敏感なんだよ。だから、みんな和美ちゃんのそばに寄ってきたんだよ。」

ベテラン介護士の百香(モカ)にそう言われると、そうかもしれないと思う。
何か、感じるものがあったのかもしれない。

和美が、百香への長い話を終える頃、日も陰って来た。
「また、会おうね。」
「今度は、ノアヒールの交流会、3月20日(日)だね。」

二人は、そう言葉を交わして18時過ぎに別れた。
約20時間後、未曽有災害に遭うことなど、考えることもなく・・・。

続く
2011年5月8日(日)

エンドレスヒール#52 -3.11

かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね

次回 エンドレスヒール#53 へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n8317edd52601

前回 エンドレスヒール#51 は こちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/na4709a9949d8


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https://note.com/mizukiasuka/m/m3589ceb09921

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