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元祖 巴の龍#34(地図付)

安寧に向かう菊之介と大悟は、あの黒龍との戦いの時、突然飛んできた火の玉のことを繰り返し話題にした。
黒龍が消え去った後、もとの闇夜に戻り、二人はやすやすと城を抜け出し、その夜のうちに、新城を後にした。それから南東の安寧に向かっているのだが。


大悟は、ロンのことがあってから菊之介は確実に変わってきた、と思っている。
菊之介が目覚めたあの日から、ロンのことは一度も口にしていない。

ただサライを発つ前に、大悟の作った墓に、季節の花を供え、手を合わせただけだった。
しかし、その後の菊之介は、追手や妖怪に襲われた時に、躊躇いなく太刀を振るうようになった。
そして、ロンに教えてもらったカンフーを二度と使うことはなかった。

「何度考えても不思議ですよね。どこからあの火の玉は来たんでしょうか。なぜ助けてくれたんでしょうか。兄上、聞いているんですか」
菊之介がぷーっとふくれて大悟を見た。

「あ、すまん、すまん。ちょっと考え事をしていたのでな」
こうしてふくれていると、まだまだ子供だと思う。
だが、菊之介の胸の内には、無残に殺されたロンの姿が焼き付いているに違いなかった。

菊之介はふくれて横を向くと、ふと道端に咲いている桔梗の花を見つけた。
「兄上、桔梗です」
菊之介は座り込んで桔梗を見つめた。大悟もかがんで覗いてくる。
「美しい花だな、可憐で」

大悟はきっと母に思いを寄せているのだろう二人の心の中はいっしょなのだと、菊之介は改めて思った。
しかし、それと同時に菊之介は義姉・桐紗を思い出した。ほんの短い間だけの再会。

変わらず美しい姉。だが桐紗はなぜ、菊之介の名を知っていたのだろう。
妹ではなかったこと、男であったこと。それを隠していたことは許してくれたが、何か様子がおかしかった。

心ならずも敵味方の中にいて、果たしてまた、相まみえることができるだろうか。それとも、もう二度とあえないのだろうか。

「桔梗か、もうすぐ秋だな。安寧につくまでに、冬にならねば良いが
 菊之介はふりかえった。

「大丈夫ですよ。安寧はさほど寒くない。菊の季節になる前に着きましょう」
この兄がいる。菊之介は温かい気持ちで大悟を見つめた。

続く
ありがとうございましたm(__)m

地図(モデルは九州ですが、私の線が下手すぎる。2001年作成)

来良⇒甘露⇒サライ⇒新城⇒安寧に向かっている

「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ

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