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アスタロト公爵#5 阿修羅王

※この物語は 「阿修羅王」本編より 悪魔の三大実力者のひとり、アスタロト公爵の作品を抜粋しています。特定の宗教とは 何の関係も無いフィクションです。

アシュラが飛び立とうとすると、足元に水を感じた。
ひたひたと湧き上がる泉のほとりに、アシュラは立っていたのだ。
濡れた足元に目を落とすと、揺れる泉の水面に白い人の姿があった。
顔を上げたアシュラは、その目を疑った。


「姫・・・か?」
白い薄絹の衣装をまとい、濡れた黒髪の少女が立っていた。
少女は、アシュラの声に気づいて、ゆっくりとこちらを振り返った。
アシュラは走り出した。
走って姫の間近に身を置くと、震える指で、その黒髪にふれた。


気が付くと、ロココ調の羽根布団の上に、アシュラはいた。
体が妙に重く、けだるい。何が起こったのか、自分でもよく解らなかった。

「気を失ったかと思ったぞ。
おまえのおかげで、アスタロトは自分の情事に夢中だ。」
「何を・・?」
「覚えてないのか?」
覚えていない。
「姫の髪にふれて、それから・・・。それから、記憶が無い。」


トンニャンは気まずそうに、自分の髪を何度か撫で付けた。
「すまなかった。おまえがあれほど姫を愛していたとは・・・誤算だった。」
アシュラはパッと顔を上げ、耳まで裂けた鬼の顔でトンニャンを睨んだ。
「おまえが見せた幻か。では、では、姫は・・。」
「・・・わたしだ。」
アシュラは目を伏せた。


「あの色好みのアスタロトの気をそらせるには、方法は一つしかなかった。だが、姫に変化したのは、わたしが悪かった。二度としない。」
アシュラがもう一度目を開いた時、また美しい少年の顔に戻っていた。
「もう、いい。もう、言うな。
どうしても、アスタロトに聞かれたくない話があったんだろう。」

トンニャンはコクリと頷くと、ベッドを下りて、アンティーク調の椅子に座った。
「夕べの話。部屋が破壊されて話せなかっただろう。」
「夜中にいなくなったことか。」
「あぁ、久しぶりに旧知の友の呼び出しがあってな。」

呼び出し・・・。トンニャンを呼び出せる友といえば二人しかいない。
「・・・ミカエルか?」
「よく解ったな。」
「天帝がこの世の惨状を黙って見ているとは思えないからな。
それにアスタロトに聞かれたくないなら、ルシファーよりミカエルの話だろう。」


トンニャンが、首を横に振りながらため息をついた。
「おい、まさか・・・。」
「そのまさかだ。毎度の事ながら、太古の昔から、全く考えが変わっていない。」


「方舟?」
トンニャンが頷いた。
「また、あれをやるのか。
俺は忘れていないぞ。水に沈みながら、わが子を天に抱き上げた、たくさんの母親を、また見ろというのか。
いったい、今度は誰にノアをやらせるんだ!」


アシュラの怒りは雷のエネルギーに変わり、シールドを突き破らんばかりに天井に突き刺さった。
二〇〇六年平成十八年七月二十八日(金)朝方

ありがとうございましたm(__)m

書籍「阿修羅王」に記したように、この物語は子供の頃から書き続けている長い長い物語です。
本編の主人公は、アシュラでもアスタロトでもありません。
「阿修羅王」は、この物語の中で唯一インドの神々が活躍する物語。
本編からの抜粋した、スピンオフです。
ご紹介している「アスタロト公爵」は、主にアスタロトが活躍するスピンオフです。

アスタロト公爵#5 阿修羅王


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アスタロト公爵#6へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n7087d9da610b

アスタロト公爵#1最初からhttps://note.com/mizukiasuka/n/n86d65d981a73

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