トンニャン#32 愛と美の女神 ウェヌス
※この物語は、「阿修羅王」編、「アスタロト公爵」編の、本編です。
「ウェヌスの巻」のような意。話の位置は前回の「ブラックエンジェルの巻」の続きです。
なお、この物語で「現在」「今」という場合は「日本民族が滅びてから約1000年後」のこと。つまり、今から何千年後かの未来です。
また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
ウェヌスは振り返ると、急にチェリーに庭仕事の追加を頼んだ。
「チェリー、私は新種のバラが欲しくなった。ちょっと人間界で、新しいバラを探してきておくれ」
「はい。ウェヌス様」
チェリーは即座に承知し、すぐに出かけて行った。
ウェヌスは、チェリーが見えなくなるのを確かめてから、もう一度、クビドの手を取った。
「私の血が騒いでいるのかしら。あなたが、プシュケー以来、ほかの女に手を出すなんて。たのもしいわ。やはり、私の子ね」
「ウェヌス様、そんなことの為にここに来たのではありません。
わたしは、チェリーがいつもあなたの言うままに、ここで働いている事に疑問を感じているのです」
ウェヌスは、つんとしてわが子の手をはらいのけると、宮殿の入り口の階段を登り始めた。
「チェリーは、ケルビム(智天使)としての務めがあります。ここでいいように使われているのでは、仕事に支障でます」
「そんな事を言う為に来たの?あれは役に立つ。
私の子供の中で、あなたが一番優秀。そして、その妻も一番従順。
とても気に入っているのに。
それより、・・・まだチェリーには、ばれてないんでしょう?
チェリーより先に子供を作っちゃいなさいよ」
「ウェヌス様!」
クビドは呆れたように、ため息をついた。
「おや、つまらない。その気はないようね。私なんて、あなたのほかにも、夫以外の子供をたくさん生んだのに。
それぞれ天上界では役立っていると思うわ」
それから、登りかけた階段を降りて来て、もう一度クビドの手を取った。
「おかしいわ。この私が。相手がだれか読み取れないなんて」
クビドは、今度は自分から母親の手をはらった。
「わたしはもう子供では、ありません。
わたし達夫婦の事は、ウェヌス様にご心配いただかなくても大丈夫です。
チェリーとは、うまくいってますから」
クビドは飛び立とうとしている。
「バラは諦めて下さい。私は、チェリーを迎えに行って、それから自分の城に帰ります」
「クビド、ちょっとお待ちなさい!」
ウェヌスは色をなしてクビドの腕をつかんだ。
「なんですか?それが母親に対する言葉なの?」
「母親?一度としてあなたが母親らしい言葉をかけて下さった事がありましたか?あなたの生んだ私の兄弟達も、あまり多すぎて誰が誰やらわからない。兄弟として心を通わせた者など一人もいない」
ウェヌスは口惜しさに唇を噛んだ。
「なんという事を・・・。ならば、クビド、本当の事を言いましょう。
あなたはミカエルの子ではない。あの頃一緒に暮らしていたから、ミカエルが誤解して自分の子と勘違いしたのよ。
私はいつも自由だから、毎日違う者と契っていたのに」
「あなたはそれを、わたしに話すことが平気な方なのですね。
・・・いいえ、わたしはミカエル様の子です。わたしにはわかります」
「母親の私がわからないと言っているのですよ」
クビドはむきになるウェヌスを、もう相手していなかった。
「そうしてわたしが生まれた後に、乳飲み子のわたしを置いて、このヘパイトス様の宮殿にもどったのですよね。よくわかりました。
とにかくチェリーは連れて帰ります」
クビドは、捨て台詞のように言い切ると、すぐに飛び立ち見えなくなった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
トンニャン#32 愛と美の女神 ウェヌス
※トンニャンシリーズの「〇〇の巻」noteなら、ほぼ五回。
これから時間のある時に、一挙に五話アップします。
たまにしかアップできないので、お時間のある時、ゆっくり一話ずつ読んでくださると嬉しいです。
トンニャン#33 愛と美の女神 ウェヌスへ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/na5cb81ee2e9b
トンニャン#31 愛と美の女神 ウェヌスはこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/nb08cf03cdbb3
最初からトンニャン#1は
https://note.com/mizukiasuka/n/n2fc47081fc46