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パズル③リンゴ売り

「美咲が子供の頃 リンゴを売る人が家にきていたの、覚えてる?」


母・智恵の口からで出た唐突なひと言。


覚えている。しかし・・・・


美咲は生まれた家を、父・次郎の転勤で十歳の時に離れていた。


転勤先で嫁いだ美咲だったが、美咲が二人目を出産する時、


両親は美咲が生まれたこの家に、戻ってきた。


ただし、家は建て替えられ、美咲が祖父・寅吉と過ごした


思い出の家ではなくなっていた。

寅吉が亡くなって 初七日を過ぎた頃 


次郎は菩提寺の和尚様から呼ばれて 寺に出かけた。


寺から帰った次郎は、へなへなと座り込んだ。


「大変な事を聞いてしまった」


身重の智恵が怪訝な顔で のぞきこむ。次郎の聞いた話。


寅吉の妻 ツキが亡くなってまもなくの事だった。


ある日 突然リンゴ売りの女がたずねてきた。


女はF県K町から来た、と言った。


その町は寅吉が若い時に ふるさとを飛び出し


ひと時を過ごした土地だ。


息子の次郎と同い年だった そのリンゴ売りの女は


ひとりの女性の名を口にした。


それは かつて寅吉が愛し ふるさとに帰る時に


その土地においてきた女性だった。


リンゴ売りの女は言った。


「私は あなたの孫です。」


と。


「リンゴ売りって、ここ三年ばかり家に来るようなったF県の・・・」


「そうだ。年はオレと同じ年だが、おやじの孫だったんだよ。」


どんな事情があったか、寅吉が亡くなった今となっては


知るすべはない。しかし、寅吉がF県K町を去った後、


その女性はひとりで寅吉の子供を生み、ひとりで子供を育てた。


そして、その子供も成人し、その子供の子供


つまり、寅吉の孫が 祖父を尋ねてやってきたのだった

パズル③リンゴ売り

2008年作品(まだ水月あす薫が、生まれない頃)


                         パズル④につづく

最新作「駒草ーコマクサー」
かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね

今までの五作品のご紹介もあります


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水月あす薫SIRIUS
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