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N大佐(ちょっと不条理#11)
少年兵が並ぶ中、馬に乗ったN大佐が通っていく。
騎乗のN大佐は、突然馬を止め、ひとりの少年兵に声をかけた。
まだ黄緑色の果実ながら、少年らしからぬ鋭い眼は、暗くよどんでいる。
「いくつになる?」
「十四です」
十二歳から十七歳の少年兵。
だが彼は、栄養状態が良くないのか、十二歳にも満たなく見える。
「なぜ少年兵を志願した?」
「殺したい者がいます」
「ほう、殺したいとはぶっそうなことだな。誰だ?」
「父親です」
ためらいのない言葉。
「父親だと」
「会ったことのない父親です」
「それはどういうことだ?」
「わたしの父は、二十歳にもならない母をもてあそび、捨てました。
おそらく、わたしが生まれたことも知りません。」
「母親は?」
「わたしは生まれてすぐ、国の施設に預けられ、母とも別れました。
母の顔も知りません」
「それでは探しようがないではないか」
「いえ、いつか必ず自分の身元を確かめます」
「どうやって?」
「まだ、わかりませんが・・・必ず」
「父親を殺したいと?」
「はい」
額にしわを寄せて聞いていたN大佐が、眼光鋭い少年を見つめる。
「気に入った。わたしの隊に入れ」
「はい!」
少年は高らかに喜びの声を上げた。
「しかし、わたしの隊は厳しいぞ」
「はい!覚悟の上です」
N大佐は、若い頃だいぶ派手に女遊びをし、泣いた女は数知れずと聞く。
少年の父親もN大佐のような軍人だった可能性が高い。
ゆえに少年は、兵士を目指したのだろう。
いや、もしかしたら少年はN大佐の息子で、彼はそれを知っていてN大佐の隊に入る機会を狙っていたのか。
それとも、知らずN大佐に憧れたのか。
とすれば、やはり血が彼を、父親に近づけたのか。
N大佐の馬はきびすをかえして帰っていく。
真実を覆い隠したまま、少年の新しい日々が始まる。
原案 20160203
筆 20160206
ありがとうございましたm(__)m
ほんとうはこれはネタで、ここから話を作り直さねばならないもの。
もっともっと古いネタ帳に、今でも作品化されていないものが山ほどあるが、すでに古すぎて今では書くこともできない。
泉のようにアイディアがあふれた時代が過ぎたことを、感じる今日この頃である。
N大佐(ちょっと不条理#11)
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