アスタロト公爵#1 阿修羅王
※この物語は、「阿修羅王」編の本編、長い長い物語から「アスタロト公爵」の登場する物語を抜粋したスピンオフです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
アシュラは、眠っていたベッドの隣に手を伸ばし、いるはずの相手を探した。まだ温もりの残るそこには、もう誰もいなかった。
アシュラは、そこで初めて目を開いた。
つと隣に目を移すと、やはりいない。
体を起こし少し目をこすりながら、ぼんやりとした視線を正面に向けた。
狭い部屋の中には、隅にベッド、そして窓、中央に小さなテーブルと椅子が二つ。
そしてテーブルの横には暖炉と小さなキッチン。キッチンの横には・・・。
キッチン?
「起きたのか?アシュラ?」
トンニャンがキッチンで何か作っている。
「朝食が出来たぞ。ちょうど良かった」
朝食?人間みたいだな、トンニャンらしくもない。
ふとそう考えたが、抵抗もせず起き上がった。
そしてベッドを下りると、キッチンの傍の流しで顔を洗った。
鏡に映る自分の姿はピンク色の頬をした少女だ。
アシュラは上気した。
胸のふくらみを我が手に感じると、とたんに体中が熱くなった。
「どうした?さめてしまうぞ」
くったくのない、トンニャンの声が後ろから覆いかぶさってくる。
女に・・・なっている。
その瞬間、アシュラの中の細胞が、時を置かず変化した。
「ああ、今行く。」
そう答えたアシュラは、すでに少年になっていた。
【阿修羅王】
阿修羅の起源は、古くは古代メソポタミア文明のシュメール・アッシリア・ペルシアとされる説がある。
インドで、サンスクリット語のアスラとなり、中国を経て、日本では阿修羅王と呼ばれている。三面六臂(さんめんろっぴ)の姿で描かれる事が多く、帝釈天との戦いを繰り返し、何度滅ばされても蘇り、永遠に戦いを続けていると言われる。だが、戦いの真相には裏があり、女がかかわっているとの説も根強い。
「珍しいな、おまえが朝食を作るなんて」
「たまにはな。人間の真似事も面白いぞ」
トンニャンは、よく焼けたクロワッサンにバターを付けると口に含んだ。
アシュラはトンニャンの入れてくれたコーヒーを飲みながら、またぼんやりとトンニャンを見つめている。
トンニャンは、どうしてこのアシュラをパートナーに選んだんだろう。
遠い昔、不死を繰り返していたあの日。
姫に会いたい。
それだけの為に、姫をさらった帝釈天との戦いだけが、アシュラの生きる縁(よすが)だった。
それを、いったいいつのまに、全く覚えていない間に、長い時の世の先の人間界で、澄由燁(すみよし あき)いう名の一人の少女として生まれ、生きていた。
小さな初恋や、幼馴染とのかけがえのない友情を謳歌していた十七の冬、『不死鳥鳳』(ふしとり ほう)という少年が突然現れた。
少年は、「おまえを迎えに来た」と言った。
燁の体の奥底から、古代の記憶が蘇った。
少年はトンニャン。
アシュラを燁に仕立てた張本人だった。
アシュラは、目覚めた。
「始まるのか?おまえが迎えに来たからには・・・そうなんだろう?」
ありがとうございましたm(__)m
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アスタロト公爵#2へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/nde26a9f073ba
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