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パズル⑥鳳凰とドラゴン そして

祖母・ツキの三十七回忌。美咲は嫁ぎ、母となっていた。

三人の子を連れていた。子供は11歳、8歳、5歳、男の子ばかり。

東京に暮らす弟も来ていた。

盆と彼岸にまいる墓、あらためて墓石に刻まれた名前を見る。

祖父・寅吉と その妻 ツキ そして

早くに亡くなった 祖父母の四人の子供達の名が刻まれている。

寅吉とツキの、成人し結婚して、家庭を作った子供達は

長女愛 三女木綿子 五女歳子 六女サツキ 次男次郎

亡くなった子供は 二女テイ子 四女遥子 七女桜子 長男 竜太郎

そして 戸籍にない 家系図にのらない 認知していない 

寅吉だけの子供が ひとり F県K町 リンゴ売りの女性の親

性別も美咲にはわからない 消息もわからない。

しかし 確実に存在した 同じ血筋の 親族が。

リンゴ売りの女性には娘がいた。 転勤直前 二人目を妊娠していたという、

リンゴ売りの女性が、父・次郎と同い年として、その子供達は美咲より少し年下。

美咲は刻まれた墓碑銘をもう一度見る。

死んでゆくとわかっていた子供に、自分のトラになぞらえてリュウと名づけたのか。

リュウ 竜 龍 ・・・ドラゴンだ。ドラゴンがいた。

あれから、またさらに何年かが過ぎていた。

考えてみれば、祖父・寅吉は当時としては、しゃれた人だったようだ。

子供の名前をみても 今も通用するような名前ばかり。

月に水  鳳凰にドラゴン 頭の中に ことばのパズルが組み合わさる。

寅年に生まれ 寅年に亡くなった寅吉 だから、弟は寅年。

大地に立つ虎・・・土の弟 寅吉の虎。

虎は月夜に立ち 水の流れを眼で追う。 月のツキ 水の次郎と智恵。

空を有するドラゴン 龍。 雲をかけ光となった竜太郎。

そして 鳳凰は火だ。火は美咲自身。

パズルは完成したのか?

幼き日の 様々なトラウマは、 その後の人生のすさまじさにかき消され

人並みに結婚した美咲は 人並みに母して妻して主婦して仕事していた。

寅吉はうずもれた俳人だった。才能があったかどうかは、美咲にはわからない。

いつか、祖父の書き残したものを本にしたい、と望んだはずの美咲も、

寅吉の子供達、寅吉の孫達の中で、たった一人、書くことを愛した美咲も、

長い間 書くことをあきらめていた。

しかし・・・

「おじいちゃん、目覚めたよ。私、おじいちゃんの本を出せるかは、わからない。
 自分の本だって、出せるかわからないよ。でも、もう、書くのはやめないよ。 
おじいちゃんのように、死ぬまで書き続けるよ。」

美咲は、大きくなった三人の息子を連れて、実家の墓参りに来ている。

自分の人生も すでに折り返し、いつ何があってもわからない そう思い始めた。

書くというDNAを受け継いだのは 美咲だけ。息子達も書かない。

パズルの最後のピースは たぶん F県K町にあるのかもしれない。

探しに行こう。見つけられるかどうか、わからなくても。

広げた手のひらに、 羽ばたく翼と 燃える炎を見つめながら

美咲は 決心していた。

                        パズル 終 
2008年作品(まだ水月あす薫が、生まれない頃)    

「八紘に 放つ光や 初日の出」 雨愁亭 白汀(うしゅうてい はくてい)

現在の上皇様誕生のみぎり 国中に お祝いの俳句が募集され

祖父は 東北代表で 選ばれ この句を皇居で読んだ。

白汀は祖父の 自分で付けた 号(ペンネーム)である。

『この物語は、ある事実に基づいたフィクションであり、登場する人物名

 年齢を含めたすべての設定、背景など すべて架空のものである。』

                                     パズル⑥鳳凰とドラゴン そして

長い間 読んでくださった皆様 ありがとうございました。

最新作「駒草ーコマクサー」
かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね

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水月あす薫SIRIUS
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