元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#46
「このまま二人でどこかに行こう」
「何を言い出す。そんなことしなくても、いつか丈おじに会わせるさ」
会わせる、と言われて兵衛は一瞬たじろいだ。そんなことできるはずがない。妻のいる身では、逃げる以外に方法はない。
「いっしょに逃げてくれないか。芹乃と二人ならどこで暮らしたってかまわない」
兵衛の視線の真剣さに、今度は芹乃がたじろいだ。そして兵衛の腕を振りほどいた。
「どうかしている。どうかしているぞ、兵衛様」
「あぁ、どうかしているさ。芹乃といっしょになるためなら、何だってする」
「いっしょになるのに、なぜにげねばならぬ。逃げなくともよいではないか」
「そ・・・それは」
兵衛は言葉に詰まった。
「私は刀鍛冶になる夢がある。その夢は、まだ途中だ。
今やめるわけにはいかぬ。
兵衛様だって、やらねばならぬことがある、と言うていたではないか。
どんなことかは聞いておらぬが、それはもう良いのか」
やらねばならぬこととは、三つ口定継を倒し、新城を奪還することだ。
幼き日よりそうせねばならぬと教え込まれてきた。
兵衛の今の人生は、選び取ったものではなく、与えられたものだ。
兵衛に選択の余地はなく、生涯の伴侶さえ決められて、そしてそれを今まで何の疑問もなく受け入れてきた。
いや、選ぶ権利などないのだと、諦めてきたのだ。
だが芹乃と出逢い、自分の人生は自分で決めて夢に向かっている芹乃を見て、違う生き方があるのではないかと、思うようになった。
それは洸綱や葵を傷つけることになるかもしれない。
それでも芹乃と一緒なら……と兵衛は思っていた。
しかし、兵衛の思いを通すということは、芹乃の夢を捨てさせることになるのだ。
兵衛は、ふと笑った。
「すまぬ。少し熱くなりすぎた。芹乃の言うとおりだ」
兵衛は、これで芹乃とは一緒になれないだろう、と思った。
それでも今日も家の前まで送った。
別れ際にもう一度抱きしめると、あと何回会えるだろうかと、つらい思いに囚われた。
それでも最後の一瞬まで芹乃を諦めたくないと、心の奥底で叫ぶ自分を抑えることが出来なかった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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