元祖 巴の龍#30
「わたしがあの家の世話にならなければ、ロンにカンフーを教えてくれなどと言わなければ、ロンもマーマも死ぬことはなかった。
わたしがロンとマーマを殺したのだ」
「それは違うぞ、菊之介。・・・川の水は冷える。上がって話をしよう」
しかし、菊之介は強く川に留まろうとした。
「初めて人を斬りました。初めて人が憎いと思いました。
あの者達にも親はいたろうに、許すことができませんでした。
わたしの体は血で汚れています。いくら川の水を浴びても、あの者たちの血が消えません。
落ちない。落ちない。兄上、血が、血が・・・」
大悟は菊之介を無理に岸に上げると、自分の着物の上着を菊之介の体に巻き付けた。
昨日まで着ていた着物は返り血を浴びている。もう着ることはできないだろう。
大悟はとりあえず近くの薪を拾って火をおこした。菊之介は唇が紫色に変わり、がたがたと震えがきている。
体を横にしてやると、すうっと目をつぶった。大悟は菊之介を抱き上げると、再びロンの家に向かった。
その夜、菊之介は熱を出した。かなりの高熱で、何度も手拭いを濡らさなければならなかった。
大悟はできうる限りの看病を試みた。父・丈之介に教わった薬草を探し煎じて飲ませたり、部屋を温かくして土間で湯を沸かし蒸気で部屋を湿らせたり。
それから心配しながらも家を空け、菊之介の新しい着物も買ってきた。菊之介は三日三晩苦しんだが、四日目の朝ようやく熱が下がった。
菊之介が目覚めると、枕元に大悟が疲れて眠っていた。土間で何か吹いている。
菊之介はふらふらしながら土間に降りると粥ができていた。
「あつっ!」
さわろうとして思わず声をあげると、大悟が起き上った。
「き・・・菊之介、まだ起きてはいかん。寝ておるのだ」
大悟はあわてて、菊之介を布団に押し込んだ。
「腹がすいておるであろう。粥をわけてやろうな。何しろ三日もねむっていたのだからな」
大悟は茶碗に粥をわけると菊之介の枕元にもってきた。
菊之介は起き上って、粥に口をつけた。
「おいしい」
「そうであろう。俺が作ったのだからな」
大悟は目を細めて微笑んだ。
サライの夏もはじまろうとしていた。
続く
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「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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