トンニャン#35 愛と美の女神 ウェヌス
※この物語は、「阿修羅王」編、「アスタロト公爵」編の、本編です。
「ウェヌスの巻」のような意。話の位置は前回の「ブラックエンジェルの巻」の続きです。
なお、この物語で「現在」「今」という場合は「日本民族が滅びてから約1000年後」のこと。つまり、今から何千年後かの未来です。
また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
「ミカエル・・・本当に、クビドはあなたの子ではないかもしれないわ。
私、意地になって勢いで言っていたけど、あなたとクビドはちっとも似ていないわ。あの子は小さい時からハッキリした物言いをし、こうと決めたら決して譲らなかった。
プシュケーの時も、あんんなに反対したのに、仕舞いにはうんと言わされてしまった。それに、そう、あの子、チェリーのほかに女がいるのよ」
失意に沈んでいたミカエルが飛び起きた。
「チェリー以外に女が?そんな馬鹿な」
「本当よ。でも、相手が誰かわからないの。どうしてか、私の力を持ってしても、読み取る事が出来なかった」
「読み取る事が出来ない相手・・・?」
ミカエルは考えながら、また書斎の机の椅子に座った。
「そう、手にふれて、チェリー以外の波動を感じたのに、その相手の姿が見えないの。恋の女神の私がよ。本来考えられない事なんだけど」
ミカエルはまだ、黙ったまま考えていたが、やがて顔を上げて、ウェヌスを見据えた。
「クビドはわたしの子だ。それは間違いない」
「あらそう。ここまで言っても、母親の私の意見は聞いてくれないのね」
「真実は変わることがない。わたしの子であればこそ・・」
ミカエルは声を落とした。
「なあに?何か決め手があるの?」
「確証はないが・・・。いや、いずれにしろ、わたしの子には違いない」
「クビドも、同じ事を言っていたわ。あなた達親子は強情なところはそっくりなのね」
ウェヌスは、書棚の横の壁に掛けてある丸い鏡に自分を映していたが、その透き通るような白い肌に、ため息をついた。
「あなたが今でも私を拒めないはずね。こんなに私は美しいのだもの」
ミカエルは、その背中に苦々し気にはき捨てた。
「もう、ここへは来ないでほしい。あの時も、今も、あなたはヘパイトスの妻なのだから。これ以上罪を重ねるのはやめよう。
さっきはわたしもどうかしていた。その昔、あなたを本気で自分の妻に出来ると信じていた頃とは違う。
わたしはあなたのように、誰とでも契れるほど器用ではない。あなたが、結局はヘパイトスの妻である事は変わりがなく、そして、わたし以外の者とも、これからもあなたは愛を語るに違いない。
わたしはヘパイトスとは違う。それを許してあなたを受け入れるのは、わたしには出来ない」
ミカエルの言葉が終わるか終わらないうちに、ウェヌスは不意に振り返って、またミカエルの唇を奪った。ミカエルは力づくで、それをはねのけた。ウェヌスは、少しよろけて腰をついた。
「もうやめようと、言ったばかりではないか。本当に、もう来ないでくれ」
ウェヌスは乱れた髪をすくように指を入れながら、ゆっくりと立ち上がった。
「嫌よ」
「ウェヌス!」
「あなたとこれきりなんて嫌!これからは、時々寄らせてもらうわ。クビドの母親としてね」
ミカエルは何か言いかけたが、ため息をついて横を向いた。
二〇〇六年平成十八年八月十六日(水)
トンニャン#35 愛と美の女神 ウェヌス
※クビドの母・恋の女神ウェヌスは、たくさん男たちと関係を持ち、たくさんの子供を生んでよい、と許された女神です。
対してリオールの母 リリスは、自分の意志ではなく、たくさんの子供を生むことを宿命づけられた(義務づけられた)者です。
わかっていてクビドとリオールを対の天使に設定したわけでなく、後で調べてみて、さらに書いてみてから気づいた、そんなことばかりの私です。
トンニャン#36 魔女裁判長リリスへ続く
トンニャン#34 愛と美の女神 ウェヌスはこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n37b0f5cefdfc
最初からトンニャン#1は
https://note.com/mizukiasuka/n/n2fc47081fc46