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告白 (掌説・物語)


ぼんやりとした薄明かりの中 けだるい想いに侵されたまま
ふと左腕をのばし シーツをめくる。


「帰るのか?」

あなたの声。

帰るわ。

「出張、だったよな?」

でも 家は 空けられない。

あなたは起き上がり ベッド脇のルームランプをともして タバコに火をつける。

「夕べ だんなと・・・」

あなたの口を 私は自らの唇でふさぐ。

そうよ。だって 私は妻だもの。
夫の出張前には 浮気防止に 抱かれるのは あたりまえ。

「別れたいって、あれほど言ってたくせに」

そうね。本気で別れたかった。
別れ話も切り出した。



夫は自分の社会的地位のために 私を飼い殺しにした。
そう、絶対に別れないと 言いきった。

そして もし 私に男が出来たら その男を『刺す』と。

それは もっとも卑劣な 私への脅しとなった。

あなたは・・・殺させない。
あなたを 死なせるわけには いかないの。



「今度 いつ?」

わからない。




夜更けの街を 家路につく。


夫が定年になったら 家をリフォームして バリアフリーにしないと。
もう 家を改修するのは 最後のチャンスでしょ。


最近の 私の友人と話す時の 口ぐせ。
夫との老後の 青写真。


嘘つき!

おまえは 嘘つきだ!

泥にまみれて 地獄に堕ちるがいい。

そう きっと それが お似合い。


               了

20100316







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水月あす薫SIRIUS
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