元祖 巴の龍#26
いったん東の甘露への道筋を、来る時同様妖怪や人間の追手が後をたたなかった。甘露から北東のサライへも難儀な旅だった。
菊之介は、行くところすべてに敵がいて、命を狙われていることを改めて確認せざるを得なかった。
母・桔梗が言ったとおり、菊之介は幼い時に可愛がってもらった、あの三つ口定継に命を狙われているのであった。
久しぶりのサライは、菊之介たちに期待と安堵をもたらした。
来良を出た時はまだ冬の終わりだったのに、今は青葉の季節ととなっていた。
山の獣たちもすでに冬眠から覚め、元気に走り回っている。
「マーマに何か、土産物を用意すればよかったな」
珍しく大悟が気づかいを見せた。菊之介もそれは考えていた。
しかし、旅の途中では命を守るのが精一杯で土産を用意する余裕はなかった。
「土産いらない。早くマーマのところ、帰る」
あれほど帰りたがらなかったのに、サライに着くや否や、ロンの気持ちは懐かしい我が家に向いていた。
「わかった。ロンは先に帰っておれば良い。わたしと兄上は、少し遅れていく」
菊之介にそう言われると、ロンは嬉しそうに走って行った。
「やはり子供だな。母が恋しいと」みえる。
大悟は笑みを浮かべながらロンを見送った。
ロンは少し行ってから、振り返って手をふった。菊之介も大悟も、手を振り返して微笑んだ。
菊之介と大悟は山に入った。ここで狩りをするのは、サライを出た日以来だ。
「菊之介、おまえは相変わらず獲物を獲ることができぬのだな」
菊之介はうつむいた。
大悟の言うように、菊之介は今も生き物の命を奪うことはできないでいる。旅の途中襲われた時ですら、振り払うことに終始し、自分からは手を汚すことはなかった。
「菊之介、いくつになったのだ」
「十四です。兄上、知っているではありませんか」
「十四ね。男が十四にもなって狩りもできんとは、情けないとは思わんのか」
「情けないと言われても、出来ぬものはできませぬ。
何度も言うているではありませんか。
親のいるものを殺すことなど、わたしには到底できかねます」
続く
ありがとうございましたm(__)m
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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