元祖 巴の龍#27
「だが、俺の獲って来た獲物は食うているではないか」
「そ・・・それは」
菊之介は言葉につまった。
それでもやはり狩りはできず、大悟のすることを、ただ眺めているだけだった。
大悟は最後にため息をつき
「まぁ、それがおまえの良いところでもあるな。武人には向いてないのかもしれぬ」
と菊之介の頭に手をやった。菊之介は立ち上がった。
「ロンの家に、先に行ってもよいですか、兄上」
大悟はうなずいた。
「では先に行きます」
大悟は菊之介の後姿を見ながら、この優しい弟がこの先どうなって行くのか案じられた。
絶え間なく命を狙われている身でありながら、敵を斬ることができないとは。
菊之介は大悟に言われたことを考えながら歩いていた。
大悟の言うことはよくわかっているつもりだった。
この先ほんとうに命の危険にさらされた時、このまま人を斬らずにすませられるだろうか。
答えはいつまでも出なかった。
いつのまにか菊之介は、ロンの家の前に来ていた。懐かしい感情が菊之介を支配し、しばし中に入るのを躊躇わせた。
ロンは今頃母に甘えているだろうか。甘酸っぱい気持ちが菊之介に広がった。
マーマに会いたい。菊之介は開きかけた戸口をそっと開け放した。
一歩踏み入れた菊之介は、生臭いにおいに顔をしかめた。
何だろう。何かおかしい。
「ロン、マーマ」
二人を呼んでみた。返事はない。菊之介は土間から上がった。
ぬるりととした足の感触。ひざまずいて手をつけると、それはおびただしい血痕だった。
菊之介はまわりを見回した。たいして広くない小屋。ロンは・・・マーマは・・・どこにいるのだろう。
「ロン!マーマ!」
菊之介が体をよじってもう一度見回すと、いきなり天井から何かがぶら下がって来た。驚いて後ずさる。
それは、血だるまになって死んでいるロンの母親だった。母親は何者かによって殺され、天井にさかさまに吊るされたのだ。
菊之介は声も出せずに立ち尽くしていたが、にわかにロンの安否が気遣われた。
続く
ありがとうございましたm(__)m
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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