元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#61
「芹乃は何も言いません。俺はあいつと幼なじみです。
十四年間いっしょに育ってきました。芹乃の悲しみは俺の悲しみです」
兵衛は苦しそうに、口を開いた。
「愛していた。本気だった。逃げようと誘ったが、芹乃の方から断られてあきらめた。
もう会わないと思っていたが、今日たまたま義父上と葵が出かけることになり、我慢できず会いに行ってしまった。
だがもう会わない。何もかもわかってしまい、芹乃を傷つけた」
「当たり前だ!」
大悟は言うが早いか兵衛を殴りつけた。兵衛はふいをつかれて転んだ。
菊之介は驚いて兵衛のもとへ駆け寄ると、兵衛は口が切れて血が出ている。
「大悟兄。急に殴るとは、ひどいではありませぬか」
菊之介が言うと
「良いのだ、菊之介。悪いのはこのわたしだ。
逃れることのできない運命を呪いつつも、自分でどうすることもできなかった。
葵のこともいっしょになるしかないのだと諦め、すべて受け入れて来た。
今になって好きな女子(おなご)ができたなど、どの面下げて言えるのか。
言えるはずもない。
芹乃と逃げることが出来なかった時から、この日が来るのはわかっていたことなのだ。
だがわたしの芹乃に対する気持ちに嘘はない。ほんとうのことだ」
「まだ言うか」
大悟が再びこぶしを振り上げようとした、その時、菊之介が大悟の前に立ちはだかった。
「大悟兄。兵衛兄には兵衛兄の事情がありましょう。
それに男と女というものは、本人同士でなければわからないことがあります。これは兵衛兄と芹乃殿の問題です。
私たちのとやかく言う問題ではないのです」
「しかし、芹乃は・・・」
「大悟兄、芹乃殿への自分の気持ち、やっと気づきましたか」
菊之介に言われて大悟は狼狽した。
「な、なにを言い出すのだ。俺は別に・・・」
「それは今、関係ないですね。あえて追求しません」
菊之介は兵衛の方を見た。
「兵衛兄上、傷は大丈夫ですか」
「大事ない」
兵衛は、ゆっくりと立ち上がった。
続く
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「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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