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トンニャン#39 魔女裁判長リリス

※この物語は、「阿修羅王」編、「アスタロト公爵」編の、本編です。
「リリスの巻」のような意。話の位置は前回の「ウェヌスの巻」の続きです。
なお、この物語で「現在」「今」という場合は「日本民族が滅びてから約1000年後」のこと。つまり、今から何千年後かの未来です。
また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

 ルシファーはふいのリリスの来訪にも、いつも通り、静かに応じた。
あの翼に傷を負って堕ちてきた時から、この男の慌てた姿は見たことがない。熱い愛の言葉の一つもなく、母親のリリーツの命じるままに、ルシファーと一緒になった。
前夫との生活に嫌気が差し、悪魔達と情を通じて、すでに子もなしていたリリスに、この六枚の翼を持つ美しい天使が、急に夫になったのだ。
リリスは最初の子リオールと、次の子サーティが生まれる間は、一度もルシファー以外と情を通じなかった。だから、この二人だけは、間違いなくルシファーの子だ。
しかし、その後生まれたたくさんの悪魔・魔女達は誰の子か自分でもわからない事が多かった。

「リオールの城に行ってきたと?」
ルシファーは自分のお気に入りのアンティーク調の大きな椅子に座り、テーブルの向かい側に座っているリリスに目を向けた。
「はい、私の使い魔が調べてまいりまして、天使の波動が城から漏れていると、聞いたものですから」
「天使のね。それで?」
リリスはリオールの城での顛末をルシファーに話した。
「そう・・・か。コーラが。あの娘がそう言ったのか」

リリスは、ルシファーの動かない目を見つめている。その昔、コーラを『愛している』と言い切った男は、今はコーラの話をしても眉一つ動かさない。
リリスは一度もルシファーから『愛している』などと言われたことがない。
ルシファーとの結婚は、母リリーツが魔界での立場を磐石にするための、政略結婚だった。
それでも、リリスはこの美しい夫が自慢だった。大天使ミカエルと双子だというルシファーは、魔界の誰よりも美しかった。この美しいルシファーとそっくりの天使がもう一人いるなどと、リリスには信じられなかった。
それでもリリスは、またほかの男に走ってしまった。

リリスには最初の夫と別れた時に、その罰として、たくさんの男と交わってたくさんの子供を生むように義務付けられていたのだ。
ルシファーという夫に恵まれながら、リリスは、その義務を果たし続けなければならなかった。

「いつのまにか、コーラは悪魔皇太子妃らしくなりましたね。驚きました。私に対する物言いも、礼儀をわきまえ立派なものでした」
ルシファーはお気に入りの椅子に片ひじをついて、リリスの話に耳を傾けている。
「リオールも、ただの生意気なはねっかえりとばかり思ってましたが、、母親と対等に口をきくようになりました。まさか、あのリオールが天使と・・・と、疑いもわきましたが、妻のコーラが言うのだから、間違いないでしょう」
リリスは、そこまで言って、言葉を切った。

「リリス、おまえらしくないな」
黙って聞いていたルシファーが口を開いた。
リリスは震えている。いつも感情むき出しのリリスが、ここまで抑えた話し方をしているのは珍しい。
「私らしくない?私らしいってなんですの?」
一つ言葉を口にするたびに、リリスの震えは大きくなる。
「無理をするな。いつものように話せば良いではないか。言いたい事を言わないと、身体に悪いぞ」

続く
ありがとうございましたm(__)m

トンニャン#39 魔女裁判長リリス

※トンニャンシリーズの「〇〇の巻」noteなら、ほぼ五回。
時間のある時に、一挙に五話アップします。
たまにしかアップできないので、お時間のある時、ゆっくり一話ずつ読んでくださると嬉しいです。

【「炎の巫女」全国配本書店名110店舗はこちら
https://note.com/mizukiasuka/n/ne4fee4aa9556 】

※トンニャンが全部読めるマガジンはこちら
https://note.com/mizukiasuka/m/mf04f309d9dfc

次回トンニャン#40 魔女裁判長リリスへ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/nf6036ee82c59

前回トンニャン#38 魔女裁判長リリスはこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/nc9c3e448516a

最初からトンニャン#1は
https://note.com/mizukiasuka/n/n2fc47081fc46

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