元祖 巴の龍#33
「もちろんです。許すも許さないもありませぬ。菊之介は騙したくて騙したわけではありますまい。わかっております」
背後から人が近づく気配がして振り向くと、大悟だった。
「菊之介、何かわかったか」
「兄上、今、義姉上から聞いたのですが」
菊之介がそう言って桐紗の方を振り向くと、桐紗の姿は消えていた。
「あ、あれ、義姉上?」
「誰に聞いたと言うたのか」
「いや、今までここにいたのですが」
大悟は首をかしげた。
「菊之介、先ほどからおまえひとりだったぞ」
大悟は菊之介の話を聞いて、すぐに安寧に向かうべきだと主張した。
もとより菊之介もそのつもりだった。二人はもう一度石垣を登り、城から出ようとした。
その時石垣の上に何者かの影が見えた。菊之介も大悟も身を伏せて、息を潜めた。
「戻ってくるとはな、菊葉。いや、菊之介」
影が声を発した。闇夜に雲が切れて、月明かりが射し込んだ。影は男の姿になった。
「三つ口の殿は桔梗とともに安寧にいる。今は新城を預かっているのはこの俺だ!」
言うが早いか、男は身の丈5尺(約百六十六センチ)の黒龍に変わった。
全身真っ黒のこの龍が、ひと声咆哮すると一転にわかに掻き曇り、黒雲が再び月を覆いつくし、激しい風と雷雨になった。
大悟は弓を引き絞って黒龍を狙った。龍が咆哮するたびに稲妻が走る。
菊之介は大悟を援護するように、黒龍に切りかかった。
カン!
硬い鱗が菊之介を跳ね返す。菊之介が跳ね返されて腰をつくと、一閃の矢が黒龍めがけて飛んできた。
矢は黒龍の首元の鱗と鱗の間に突き刺さり、龍はのけぞって苦しんだ。
その時、どこからか火の玉が回転しながら飛んできて、龍の全身を覆い、黒龍は火だるまになった。
菊之介はここぞとばかり立ち上がり、黒龍の頭から斬りつけた。
グサリと入った切っ先は龍の全身にズブリと入り、それは尾の先まで真っ二つに切り裂いた。
龍は最後のひと声咆哮しようともがいたが声にはならず、そのまま地に落ち期せずして泡のように消えてしまった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
※20年以上前に書いたとはいえ、敵、弱すぎ・・・💦※
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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