元祖 巴の龍#17
「新城の涼原(すずはら)一族を覚えているか」
「あぁ、十五年くらい昔、新城を治めていた一族だな」
彼らはどこから来たのか、旅の商人らしかった。
「これは噂だがな、どうも来良(らいら)の地に生き残りがいるらしい」
「生き残り?それは三つ口の手の者に知れたら大変なことだな」
「そう、残党狩りはかなり厳しかったようだが、涼原の城主は見つからなかった。もしかしたら、今でも生きているかもしれないな」
「いや、生きていたらまたいくさが始まるかもしれない。それは困ったことだ」
彼らは話しながら通り過ぎて行った。
大悟はやおら立ち上がると、広げていた売り物をそのまま肩にかけ歩き出した。
大悟は菊之介がロンにカンフーを習っていることを知っていた。
ロンの母親に嘘をつくのは心苦しかったが、菊之介ん思いも通させてやりたかった。
しかし伯父・洸綱(たけつな)が生きているかもしれないと知れば、いつまでもここに留まることは出来ない。
来良に行って、真実を確かめねばならなかった。
「兄上、今日は早いではないですか。あれ、もう売れ残ったのですか」
菊之介は汗をかきながら、明るく笑った。
「マーマ、喜ぶ。大悟の獲ってくる山鳥美味しい」
ロンも嬉しそうに言った。
大悟は二人の屈託のない笑顔を見ると、話しずらくなった。
もし来良に伯父がいるとすれば、この旅は危険なものとなろう。
大悟もそうだが、子供の頃から命の危険に怯えてきた弟。
今も追われているとはいえ、菊之介にとってのこの時がこれまでの人生で一番安らいでいるのではないだろうか。
何不自由ない姫としての生活。
しかしそれは偽りの自分であり、今こうして好きなカンフーを毎日教えてもうことは、もしかしたら菊之介の初めての贅沢かもしれなかった。
大悟は港で聞いた話を菊之介にしなかった。
夜になり、寝付かれずに外に出ると、満天の星が手の届く位置にあった。
大悟は空を見上げると、ため息をつき、黙ってひとりで確かめに行こうかと考えた。
「兄上」
続く
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そして、またどこかの時代で
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