元祖 巴の龍#87
「義姉上、あなたの声に救われました」
菊之介がそう言うと、桐紗は、そっと菊之介の唇に指をあてた。
「桐紗・・・」
はじめて菊之介が、桐紗の名前を呼んだ。桐紗は涙を浮かべると
「これで永遠にひとつになれるのですね」
と言った。菊之介は桐紗を優しく抱きしめ、その唇に自分のそれを重ねた。
芹乃と葵は、菊之介たちに遅れてロンワンに上陸した。いったん粛清に帰るつもりだったが、思い直して追いかけて来たのだ。
葵の操る船でようやくロンワンにたどり着いたが、上陸の直前に小船が大きく揺れて流されそうになった。
なんとかしのいで、島に降り立った二人は、今の揺れよりも、先に上陸した三人を捜すことに気持ちが動いた。
洞窟を見つけるのは難しくなかった。島にはほかには何もなく、洞窟以外に菊之介たちがいるはずがなかった。
奥の泉に着くと、奇妙な煙が立ち昇り明らかに戦いの跡があった。
「兵衛様!兵衛様!」
葵は半狂乱になって兵衛を捜したが、もう誰の姿もなかった。
芹乃は打ち捨てられた太刀と弓を見つけた。芹乃が最初に走り寄ったのは、兵衛の太刀ではなく、大悟の弓だった。
その弓を手にした時、はじめて涙が流れた。もう二度と大悟に会えないのだと悟った。それと同時に、胸の中にぽっかりと穴が空いたような気がした。
いるのが当たり前だった大悟。北燕山を追われた時も、いつか会えると信じていた大悟。その大悟はもういない。
「大悟の愚か者。私はもう、自分の気持ちをおまえに伝えられないではないか」
芹乃は大悟の弓を握り締め、涙を流し続けた。
ロンワンでも戦いの後、三つ口定継、桔梗のみならず、兵衛・大悟・菊之介も消えてしまった。誰にも説明がつかないことだが、誰もが彼らが二度と戻って来ないと知っていた。
あの小船が揺れた時、あれは大地震が国全体を襲った時だった。
しかし、邪悪な気が消えた国では、すべての町が復興を目指し始めた。
芹乃は粛清で刀鍛冶の修行を続けていた。そしてその傍らには、親方の作った大悟の矢と弓があった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
次回 元祖 巴の龍#88はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n1b320731eff7
前回 元祖 巴の龍#86はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/nb25fa1fd0f92
元祖 巴の龍 を最初から、まとめて読めるマガジンは、こちらからhttps://note.com/mizukiasuka/m/m19d725f12ae1
「巴の龍」(「元祖 巴の龍」の後に書きなおしたもの、一話のみ)はマガジンこちらから
※私事多忙のため、毎日投稿できないので、まとめて投稿しています。
ラスト三話!
お時間あるとき、一話ずつ読んでいただけると、嬉しいです(≧▽≦)
いつも、ありがとうございますm(__)m