トンニャン過去編#11 トム・クワイエット(原題「ふしぎなコーラ」)
※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
一九七二年春~夏 イギリス・ロンドン近郊
ボソボソ・・・ささやく声。トム・クワイエットはベッドで眠っている少女を見つめていた。トムの両親とドクター・グレゴリーが話している。
「あ・・・」
トムが小さく声を上げると、皆がいっせいに少女を見る。少女はピクリと身体を揺らすと、ゆっくりと目を開けた。
「気がついたんだね?」
少女の目はまだうつろだ。
「きみは近くの空き地に倒れていたんだよ」
ドクター・グレゴリーも、彼女の顔を覗き込んだ。
「わたしは医者のグレゴリーだ。ここは、トムの家だよ。
このトムがきみを見つけて、トムの両親がこの部屋まで運び、わたしを呼んだんだ。外傷はないようだが、痛いところはないかい?」
少女は首を振った。
「話せるかな?きみの名前は?」
「・・・コーラ・デビル」
後ろに立っていたトムの両親が顔を見合わせた。
デビル・・・悪魔。
「ぼ・・・僕はトム・クワイエット。きみはどこからきたの?」
少女はまた首を振る。その後のグレゴリーの質問にも、少女はいっさい答える事が出来なかった。
「どうやら記憶喪失のようですな」
「記憶喪失?」
「何か、大きなショックを受けたのでないかと・・・。
この辺の者なら小さな町だからすぐわかるでしょうが、そうでないとすると、どこから来たのか、皆目検討がつきませんな。
もしかして、同じショックを与えれば思い出すかもしれないが、それが何なのか・・・」
困惑するトム達を残し、グレゴリーは一旦自分のクリニックに戻った。
その夜クワイエット家では家族会議が開かれた。
トムの家族は何か大切な事を決める時に、必ず全員集まって話し合う。
子どものトムの意見もきちんと聞いてくれる。
昔から、そういう家なのだ。
トムは両親・祖父母の五人家族だ。セカンダリースクールに通うトムは、この家のひとり息子だ。
「コーラの事だが、警察には届けてきた。
この町の者ではないようだ。デビルという家は聞いた事がないからな。
記憶喪失のままなら、施設に入る事になるが・・・わたしはこのまま、この家でめんどうをみようと思う」
父は言葉を選んで、ゆっくりと話している。
母が大きくうなずく。祖父が優しい目をして息子である父を見る。
「そうだな。トムがあの子を見つけたのは、何かのお導きかもしれない。
わたし達があの子に何ができるのか、試されているのかもしれない」
「一度でも我が家に招き入れた子を、このまま施設に入れるのは私も反対ですわ。私達ができる事をしましょう」
祖父は厳格だが、いつも広い気持ちでトムを受け止めてくれる。
祖母は物腰が柔らかく、いつもトムに安らぎをくれる。そして母は。
「私も、賛成です。
見ればトムと同じくらいだし、何か事情があるのかもしれない。
今頃コーラの両親も心配しているかと思うと、私には人事ではありません」
父はトムに目を移した。
「僕が見つけたのは、コーラを助けろってことだろう?
施設に入れてしまったら、本当に助けた事にはならないよ」
「そうだな。明日、警察に行って身元引受人として預かる事にしよう。
コーラの身内を探すのは警察の仕事だ。わたし達はそれまで、娘が一人増えたと思って、コーラを大切にしよう」
父の言葉に、家族全員がうなずいた。
続く
ありがとうございましたm(__)m
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