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エンドレスヒール#62 -3.11

3月16日(水)午後

電話の音。
昔の、ジリジリ という音。
和美は急いで 自宅の固定電話の受話器を取った。

「あぁ、やっと連絡取れた。」
それは仙台市の南に住む、和美の母親の声だった。
和美は、遠い昔、まだ子供の頃、よく停電があった時のことを思い出した。

そう、電話は電気とは違う。
電気とは関係なく、通じる。
だから、停電でも電話は通じることがある。

そして、和美の家の電話はFAX付きの一般的な電話だが、
電気によって稼働しており、電話の音も
トゥルルル~~~♪
という 優しい音だった。

しかし、電気が止まっている今電話という通信機のみが動き出した。
だから、昔の電話のような本来の 「ジリジリジリ」という音が鳴ったのだ。

実家の両親の無事が確認されると、続けて 関東の長男・次男、東京に嫁いだ妹、そして夫の関東に住む姉たちから次々と電話が入った。
携帯が圏外になってから、電話も通じず、一週間近く心配をかけてしまった。
電池が切れて充電もできない携帯は、全く役に立たない。

「岬さん、岬さん。」
庭先から声が聞こえた。
先ほど話した、向かいの奥さんだ。
「今、電気の通った友達からいただいたの。少しだけど、食べて。」
「え・・・いいんですか?」

それは、ラップにつつまれた ほかほかの ご飯だった。
「少しで ごめんんさいね。」
「とんでもない。ありがとうございます。」
「温かいうちに 食べてね。」

有難い、なんて有難いのだろう。
自分たちも、きっと久しぶりの温かいご飯に違いない。
それを 分けてくださるなんて。

和美は、帰って行く 向かいの奥さんの後ろ姿を見ながら、頭を下げた。
手の持っている温かいご飯と同じ 温かいものが、頬をつたっていた。

2011年5月18日(水)

エンドレスヒール#62 -3.11

※最近は、一つの会社でネット・光電話・携帯・電気など、パックで契約している方も多いでしょう。
私は、この震災の体験から、ネット・アナログ電話・携帯・電気・すべて違う会社(わざと違う会社)にしています。
もしも、一つにしたら、その会社の根本が、災害で全く使えなくなったら、すべて、何もかも使えなくなるからです。
ひとつ駄目でも、ほかで使えるようにしています。
(・・・一緒が安いって知ってます。生活が苦しいのは、そのせいかしら・・・(ToT))

かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね

次回 エンドレスヒール#63 へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n3de642576583

前回 エンドレスヒール#61 は こちらから
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