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元祖 巴の龍#15
「菊之介、やむをえぬ。本気でいくぞ」
大悟が叫ぶが早いか、少年に向かって思い切り太刀を振り下ろした。
カン!と音がして大悟の手から太刀が落ちた。
少年は振り下ろされた太刀に向かって、すばやく飛び上がり
大悟の太刀を持つ手に蹴りを入れたのだ。
「やめなさい、ロン」
家の中から女の人が出てきた。
「マーマ」
「カンフー、遊びではない。パーパに言われたこと、忘れたのか」
「マーマ、ごめんなさい」
ロンと呼ばれた少年は、神妙にうなだれた。
「すみません、。わたし達がいけないのです。
わたしがカンフーを教えてもらいたくて、この兄が勝負に勝ったら、教えてくれなどと言うものですから。申し訳ありません」
菊之介は母親に謝った。
母親はこの美しい少年に好感を持ったようだった。
「カンフー、私の国の宝。だから、他国の人に教えられない掟。
今日のことは忘れます。さあ、ロン。家に入りなさい」
しかし、そう言うとロンと家に入ろうとした。
「待ってください。また、また来ます。教えてもらえるまで、何度でも来ます」
ロンと母親が家に入ってしまうと、大悟は菊之介の肩を叩いた。
「あれは無理だ。諦めろ」
「俺は毎日何をやってるんだ」
大悟はこのところ毎日狩りに出かけて獲物を捕り、その一部はサライの村で売り、残りはあのカンフー少年・ロンの家に届けていた。
菊之介はロンの家に通いつめ、母親のわずかばかりの畑仕事を手伝ったり、ロンが村でカンフーを披露してお金をもらうのを見ていたりした。
ロンのカンフーは、お客の誰かにカンフーの相手を募り、技を見せて倒し、見ていたお客が喜べばお金が貰えるというものだった。
ロンは何年か前に家族でこの国にやって来た渡来人だった。
港近くで船が座礁し、父は、母とロンを抱えて泳いだが、岸に着いた時に力尽きて亡くなった。
それからこの異国の地で、母と二人、その日その日を生きてきた。
少しずつ彼らの事情がわかるにつれ、菊之介はとても他人事とは思えなくなった。
そして大悟に、狩りの獲物をロン親子に分けて欲しいと頼んだのだ。
大悟は少しの抵抗を試みたが、結局菊之介の言うとおりに、ロンの家に毎日獲物を届けるのだった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
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そして、またどこかの時代で
次回 元祖 巴の龍#16はこちらから
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