恋供養 ~1983年頃~ 珈巣多夢(カスタム)にて 飛鳥薫(17歳からのペンネーム)
女は腰をかがめて 川へ燈籠を近づけた
女の肩には そっと置かれた 夫の手があった
女はその手のぬくもりを全身で感じながら
無表情に燈籠を川に流した
流れに身をまかせ 燈籠の火がゆらゆら揺れた
あなた・・・
女は口の中でつぶやいた もう一度
あなた・・・
女が呼びかけた 夫ではない・・・男に
夫は妻の肩を いつしかしっかりと握っていた
そうしないと 妻がどこかへ行ってしまいそうな
言いしれぬ不安が 彼をそうさせていた
燈籠を見つめる妻の顔
かつて彼の知らない冷たく悲しい