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小説: 「光のポストカード」

雨上がりの午後、瑞希は古書店の奥で一枚のポストカードを見つけた。表には見覚えのない街並みが描かれている。石畳の路地、アンティーク調の街灯、窓際に飾られた小さな花々――まるで昔の映画のワンシーンのようだ。

裏返すと、かすれた筆跡でこう書かれていた。

「いつかこの場所で会おう。光が差し込む午後に。」

瑞希は思わず心が跳ねた。誰かが残したこの言葉には、不思議な力が宿っているように感じた。

その夜、瑞希は夢を見た。ポストカードに描かれた街を歩いている自分。石畳を踏む音が耳に心地よく響く。道の先に一人の男性が立っている。ぼんやりと逆光の中に浮かぶその姿は、まるで彼女を待っているかのようだった。

「あなたは誰?」

そう問いかけると、男性は笑顔を見せて手を差し出した。その瞬間、夢から覚めた。

目覚めた瑞希は、胸がざわつくのを感じた。このポストカードがただの偶然の出会いではない気がしてならない。

翌週、瑞希はポストカードの風景がどこなのかを調べ始めた。インターネットで画像検索を試みたり、古書店の店主に尋ねたり、地図を広げたりと、手を尽くした。しかし、手がかりは得られない。

それでも瑞希は諦めなかった。彼女にとって、この旅は単なる場所探しではなかったからだ。ポストカードに刻まれた言葉――「いつかこの場所で会おう。」――その約束を果たしたいという強い思いが、彼女を突き動かしていた。

そしてある日、瑞希はついにその場所を見つけた。ヨーロッパの小さな町、名前も知られていないような観光地。ポストカードに描かれていたのは、その町の中心にある広場だった。

午後の光が降り注ぐ中、瑞希はポストカードを手にその場に立った。周りの景色は、夢で見た通りだ。石畳の道、アンティーク調の街灯、そして小さな花々。

ふと、広場の片隅で誰かがこちらを見ている気配を感じた。振り返ると、そこには夢の中で見た男性のような姿があった。目が合った瞬間、彼は微笑んでこう言った。

「待っていたよ。」

瑞希の胸の奥で、何かがはじけた。言葉にならない感情が溢れ、彼女はただその場に立ち尽くす。

その日から瑞希の人生は変わった。何気ない日常の中にも、見えない光や約束があるのだと信じられるようになった。ポストカードの旅は終わったが、新しい旅が始まる予感がしていた。

彼女はポストカードを手に、もう一度空を見上げた。その空には、彼女だけにわかる光がきらめいていた。

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