たっちレディオ10周年記念同人誌・作曲者インタビュー(未掲載ディレクターズカット版・2/2)
前半はこちら。
というわけで今回は未掲載分インタビューの後半です。
正直、こっちのほうを書き残しておきたかったのでこの記事書いた感があります。
note掲載にあたって、大幅に加筆修正しています。要所に音源のリンクを貼っていますので、是非聴きながら楽しんでいただければ。
元の文章はあくまで「たっちレディオ10周年記念同人誌」の「500回記念ソング作曲者インタビュー」からですので、書き言葉や表現にバラつきがあります。ご了承ください。
オタクが好きなものを好き勝手に語る様、どうか温かい目でご覧ください。
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Q. 作曲の際に使っている機材を教えてください
高校生の頃、「大合奏!バンドブラザーズ」というゲームにのめりこんでいました。
いわゆる音ゲーなんですが、流れてくるノーツの規約や音色が全て楽器(音符)に準じており、LRによるオクターブ上げや半音上げなどを駆使し、トラックごとに正味2オクターブの音域を使ってバンド演奏が出来る……という、なかなかニッチな需要を見込んだ作品だったと思います。
その中で作曲機能のあるモードがあって、本編そっちのけでひたすらお気に入りの曲を耳コピで打ち込んでみたり、オリジナル曲を作ってみたり、とにかくずっと遊んでました。
……という、ここまで全く同じ、岡崎体育さんのエピソードを何かで読んだことがあり「あれ、これ、まんま俺のことでは…」と一人でえらい笑い転げた記憶があります。実話です。
2MIXの音源から特定の音(楽器)だけを聞き取ったり、それまで全く知らなかったドラムの打ち込みなんかも、自分なりに研究&試行錯誤してました。あの頃の経験があったからこそ、今でも曲作りを続けている気がしますね。
というか機材が変わっただけで、アニソンの分析と写経(耳コピ&打ち込み)は定期的に遊んでます。
現在、DAWはProToolsを使っています。職業クリエイターの方は、体感ですが比較的cubaseを使用されていることが多そうで(たっちのお二人もそうですね)、どこかで移行しようかなと思いながらもなかなか重い腰が上がらず今に至り。
思うままにコードと曲の展開を作るときは、ピアノを弾き倒します。長年使っているCASIOのPRIVIAがだいぶ年季入っているので、そろそろ買い替え検討中。
夜中でも演奏したいので電子ピアノ以外の選択肢は無いんですが、鍵盤のタッチがアコースティックに近いものが慣れているので、(高いですが)せっかくならRolandに乗り換え予定です。
あとは意外かもしれませんが、インスピレーション用にオタマトーンをよく使います。プロフィール画像は愛機です。
勝手なイメージですが、作曲家やミュージシャンは楽器に関して色々と多芸であったり(堀江晶太さんのイメージ先行の可能性)、少なくともギターとピアノくらいは弾ける人が多い印象ですが、残念なことに僕は弦楽器がまるで弾けないので、ギターソロを考えるときに毎回苦労します。
基本はMIDIの打ち込みでちまちま作ってるのですが、直感的にフレーズを作りたいときはオタマトーンが重宝します。
オモチャと侮るなかれ、練習すればちゃんと音階もキマるようになりますし、シンプルに楽器として面白いのでオススメです。
自分で言うのもアレですが、オタマトーン演奏は結構得意です。あんまり役に立たない特技。
Q. 作曲するにあたり、影響を受けたクリエイターや曲はありますか? 思い入れなどを含めて教えてください。
正直、この質問は一番困りました。
影響を受けたクリエイター、思い入れのある楽曲はたくさんありすぎて、とてもじゃないけど一つ一つ語っていくとえらい文字数になります。
記事構成的なところも考慮し、一旦3人くらいに絞ろうと思います。
まず、何はともあれ、田代さんに影響を受けていることは間違いないですね。
ひとつ前の項目でも書きましたが、とにかく初めて聴いたときのハレ晴レユカイの衝撃は凄まじいものがありました。
今改めて聴いても、どういうことなんでしょうねこれは。
昔から、曲中で転調する展開は大好物なのですが、田代さんの楽曲に触れてからは転調に対するフェティシズムがさらに加速(悪化)したような気がします。
転調のメカニズムや、それぞれの効果的な使い方については、音楽理論的に全て説明がつくので、「転調 パターン」とかで調べれば詳しく解説しているサイトなんかもたくさん出てきます、興味のある方は是非。
僕自身、専門的な音楽理論をきちんと勉強したわけではないので、正確な表現ではないかもしれないですが、一例として。
コード進行の話で例えば、サビ直前がディグリーネーム【6】で終わる置き方をしたとして、サビ頭で+2の転調をすると、直前の【6】が逆説的に【5】の解釈になりますよね。
サビ一発目のコードは、そのまま新たに転調したキーの【1】始まりにすることで、本来であれば【6】から繋がるはずが「5→1」になるので、メジャーの1始まりサビとして自然な繋がりが演出できます。
もしくは同じ【6】終わりと+2転調でも、サビ頭も転調先の【6】にすることで、「5→6」で解放感が出たり。こっちのパターンの方が多いかもしれないですね。
1B'での基準キーがAで、サビ直前(「消させない」からラップに入るところ)はF#。【6】ですね。
サビ入りと同時に基準がBに転調(+2)、頭のコードはG#m。これも【6】ですが、基準Bから見たF#は【5】なので、前述のように「5→6」の繋ぎになってるやつです。
他にも、ラスサビで半音上げ(+1)は、お手軽かつ効果的に盛り上がりを演出できますね。
古今東西ジャンルを問わず広く使われてきている、オタクはみんな大好きなやつです。手癖でよくやっちゃいます。
これは落ちサビ→ラスサビで半音上がるパターンですが、他にもラスサビの2回し目で転調、Dメロ→ラスサビで転調など、細分化すると多岐にわたります。
サビ頭で-3っていうのもよくありますね。
基準キーはA♭で、Bメロ7小節ずっとD♭【4】で(これ自体でも別個で語れるほど凄いことなんですが)、サビ直前でC【3】の進行です。
【3】は次にマイナー進行が来ることを想起させるんですが、サビでA♭→Fに-3の転調をすることで、Fから見たCは【5】なので、そのまま【1】にメジャー進行で気持ちよく繋がってます。最高。
……大丈夫かな、この記事、読んでる人面白いですか?
僕はすごく楽しいです。
転調の例示でこんなにリファレンス出すことになるとは思わず、大いに脱線しました。
話を戻すと、そうやって転調をうまく取り入れた楽曲をどんどん好んで聴くようになってきてます。自分で曲を作っていても、いかにフックとして転調させるか考えるようになったのは、元を辿れば明らかに田代さんの影響だと思います。
もちろんメロや間奏の途中であっても、転調する音階(何度変わるか)によって、それぞれ自然に繋がるコード進行と見える景色が全く変わるので、解析しているとひたすら楽しくて時間があっという間。
サビ中盤の2小節だけ+3とは一体……。
作曲において、何も考えず気持ちのいい方へ音を飛ばしたコード進行で曲を作った場合、気付いたら無意識に転調が入ってることが多いので、最近はちゃんと「必然性のある転調」を意識しないといけんな、と思ってます。
転調に関する余談。
2021年のアニソンで、構成と転調の効果が最大限に発揮されていて、個人的に「一番良い曲」認定したやつ。これが最高です。
ユメヲカケル! 一本勝負でクソ長い記事が書けます。誰か既にやっていそうですが。
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続いて影響を受けたクリエイター、二人目は大石昌良さん。
多方面で活躍されていて、近年ではカタカナ名義の遠い親戚(オーイシマサヨシ)の方のメディア露出が増えていたりもしますね。
改めて言うまでもなく皆さん当然ご存じのこととは思いますが、大石さんは本当に凄い方で。
声が良い、歌も上手い、ギターも上手い、喋らせれば面白い、パフォーマンス力もズバ抜けている、ダンスも踊る、果ては番組司会まで、なんたる安定感たるや。
「天は二物を与えず」という言葉がありますが、何物与えられているのだろうこの人はとつくづく。もちろんピザ屋のアルバイト時代をはじめ、下積みや苦悩の日々があったり、才能以上にご本人の努力の賜物であることは間違いないですが。
シンガーソングライター、ギタリスト、ボーカリスト、MC、おしゃべりクソ眼鏡など、様々な顔をお持ちの大石さん、その中でも僕が好きなのは、やっぱり音楽クリエイターとしての「大石昌良」ですね。
ちょっと遠回りになりますが。
クリエイターを気にして音楽を聴くようになって久しいことも含め、特に自分も作曲をするようになってからは、初めましての音楽を聴いたときの感想にちょっと違った視点が追加されまして。
例えば、セオリーから外れているわけではない、すごく好きなメロや展開に出会ったとして、「やられた! ちょっと考えれば思いつくはずのものを、先に世に送り出されてしまった! 自分で思いつきたかった!」っていう。
もちろんそんなに簡単に思いつくはずもなければ、ただの自己満足の域は出ない上、プロのクリエイターの創作物に対して何を偉そうに、というのはごもっともですが。
その「ちょっと考えれば思いついたはず」が、作曲を趣味にしている音楽オタク的にはめちゃくちゃ悔しいこともあるんです。
ただ、そんな中でも大石さんの作る楽曲は、僕の引き出しには絶対に存在しない、天地がひっくり返っても思いつかないような展開で構成されていることが非常に多いんです。それでいて異常なまでにキャッチーなメロが合わさるものだから、もうこれは人類の敗北以外の何物でもない。
オタクは主語が大きくなりがちです。
こんなの、どういう脳の構造してたら思いつくので?
大石さんに関する余談。
このエピソードが何度見てもメチャ好きです。
「キャッチーでいい曲」貼っときます↓
何が言いたいかというと、先述の「悔しい」とか「やられた」っていう感情が大石さんの楽曲に対しては一片たりともなく、ただ純粋に良い音楽を全身で享受出来るんです。最高です。
というかここまで書いておいて今更気付いたのですが、その理屈で言うと大石さんは「影響を受けたクリエイター」ではないですね。
いや、影響受けてないことはないんですが、それ以上にただの大石ファンでした。僕。
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さて三人目ですが、さんざん迷った結果、OSTER projectさんを挙げることにしました。言わずと知れたサウンドクリエイター、ボカロ黎明期のレジェンドです。
世代的にド真ん中、例に漏れずニコニコ動画で様々なボカロPのオリジナル曲を聴き漁ってきたオタクなので、第一線で活躍されている数々のクリエイターも、なんならボカロPとしての印象が未だに強いです。
kzさんの代表曲? Packagedですよ、そりゃ。ええ。
そんな中でなぜOSTERさんを選んだかというと、一番の理由はピアノです。僕もメイン楽器がピアノなので、要所要所で差し込まれている印象的なフレーズや展開がどうしても耳に残って、無意識に口ずさむことがあります。
特に初期の頃の曲で言うと、「Dreaming Leaf -ユメミルコトノハ-」のイントロ展開がもうとんでもなく好きで。王道展開なんですが、こんなに綺麗なピアノがあっていいのかと。
(Bメロの転調も凄く良いので是非)
あとは、全人類が大好き「ミラクルペイント」の間奏。本当に最高。こんなのズルですよ、多感な思春期にこんなの聞かされちゃったらもう、そりゃ影響も受けようもんでしょうよ。
僕が大事にしている「聴いていて楽しい曲」のマインド感は、もしかしたらOSTERさんから一番多く来ているのかもしれません。
ポップでキャッチーなメロ展開、一度聴いたら忘れない印象的なピアノフレーズも勿論ですが、個人的にOSTERさんの真価はクリエイションの幅広さ(引き出しの多さ)と、一聴で「これは間違いなくOSTER projectの曲だぁ!」って誰しもがわかるコード進行、展開にあると思います。
具体的に言うと、オンコード(分数コード)やセブンスの使い方がなんとも絶妙で、ある程度ポップスやアニソン文化に触れている人間が、「次はこっちに来るだろう」と想定しながら聴けば聴くほど、「いや、そっちは知らない!」と一瞬置いてけぼりにされる感覚があり。
なんというか脳にキくんです。大丈夫かこの表現。
例えば、「マージナル」のBメロ→サビ入り→サビ抜けまでの進行、当時初めて聴いたときは何が起きたんだか全くわかりませんでした。
OSTERさんの曲の中で、今でもイチ・ニを争うほど大好き。いま改めて聴くと、アウトロに「おもいでしりとり」みもありますね。
あとは最近の曲だと、諏訪ななかさんの「コバルトの鼓動」なんかがまさにソレです。ボーカルと合わさって、かなり脳にキく。はい。
あまり見かけない進行なんですが、サビ頭が【B♭M7】っていうのが既にちょっと混乱するところで、そこから【E7-5】に流れます。
もう完全にわからない、何もわからない。何度か聴いてゆっくり分析すればかろうじて片鱗を掴めるかな、ぐらい。
この曲は特に、どの部分を切り取ってもOSTERさんの持ち味というか、良い意味での変態性が全面に打ち出されすぎているので、解析するといつまでも楽しめます。
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というわけで3人を挙げましたが、現在進行形で影響を受けているクリエイターは、他にもまだまだ沢山います。
当然のことながら田淵さんもですし、菊田大介さん、岩橋星実さん、本多友紀さん、酒井拓也さん、岸田勇気さん、ハヤシケイさん等々……。
あ、だいたい好みかつ、影響受けやすい音楽の傾向がバレますねこれ。
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お付き合いいただきありがとうございました。
次回は、また何かデモ音源を載せられたらなと思います。