ブラジルのBlack Lives Matter 「リオのカーニバル」 Mangueira2019 「尊厳を取り戻せ」
ブラジル流、自分を知る方法とは?
世界最大級のお祭り・リオのカーニバル。本質は「民衆蜂起」。メッセージ性に富んだパレードが繰り広げられます。今回ご紹介するのは、古参サンバチームMangueiraが2019年に披露・優勝したテーマ。そのテーマとは?
■“História pra ninar gente grande” 「お偉方を眠らせる歴史」
従来:ブラジル発見500年の歴史 勝者の視点
今回:ブラジル侵略500年の歴史 敗者の視点
”Eu quero um país que não tá no retrato”
「私は額縁にない国がいい」
注)額縁に飾られるのは勝者・侵略者の英雄たち
これまで語られてこなかった歴史が今ここに。
「アマゾンに人が住んで11000年、土器が作られて8000年、マラジョアラ文明はキリスト教と同じく発祥して2000年。カリリに代表されるインディオたちは連合を組んでいました。しかし、勝者の歴史で触れられることはほぼありません。」
「Bandeirantes(バンデイランチス)は、実際は殺りく者で火事場泥棒なのに、勝者の歴史ではブラジルの国土を広げた勇敢な開拓者とされています。」
注)バンデイランチ:ポルトガル植民時代のブラジルで、主にサンパウロから各地へ「ポルトガルの領土を広げた」。旗を意味するBandeira(バンデイラ)に由来。
"O genocídio indígena no Brasil"
インディオのジェノサイド
「イサベル皇太女(ペドロ2世の摂政)に先駆けて奴隷制に抵抗し、弱体化させたインディオ・黒人・ムラートのブラジル自由の立役者たち。エリート主義とヨーロッパ中心の歴史では、彼らのモニュメントは作られず、学校のテストに出題されることもありません。」
”Dandara dos Palmares”
「パルマーレスのダンダラ」
ダンダラ(?-1694):ブラジル北東部ペルナンブーコ州のキロンボ・パルマーレスで自由を求めて戦った黒人女性。ポルトガル勢力に捕縛された際、奴隷の身分を忌避して自死を選んだ。女性部隊を率いたそう。ズンビの妻。
”Zumbi dos Palmares”
「パルマーレスのズンビ」
ズンビ(1655-1695):キロンボの首長。ポルトガルと同程度の面積の土地を統治し、人口は3万人を超えていたとか。ダンダラの夫。
”Avó de Zumbi, Aqualtune”
「ズンビの祖母、アクアルツネ」
アクアルツネ(?-?):コンゴ王国の王女。1665年、ポルトガルとの戦いに敗れ、ブラジルに奴隷として売り払われた。政治的指導力を発揮したキロンボの立役者。
参考:キロンボの様子は “Ganga Zumba”(映画)
マレ:18世紀末、ブラジルへ連行されたムスリムの黒人戦争捕虜。主人よりも洗練されていた。バイーアで蜂起。
アラビア語を駆使して、バイーアのムスリム蜂起に関与した黒人女性。ガマの母。
”Tributo ao abolicionista negro Luís Gama”
「黒人奴隷制度廃止論者ルイス・ガマのオマージュ」
ガマ(1830-1882):自由黒人の母と白人の父を持つ。10歳で奴隷とされ、17歳まで非識字であったが、司法的に自らの自由を勝ち取り、弁護士となり、29歳までに作家として評価を得ていた。
ブラジル北東部セアラー州・アラカチで貧しい家庭に生まれ、幼くして父を亡くし、水夫になる。1881年、いかだ船の船長になっていた彼は、リオデジャネイロへ向かう奴隷の取扱いを拒否。1884年、セアラー州はブラジルで初めて奴隷制を廃止。愛称は「黒いドラゴン」。
”A história que a história não conta”
「歴史が語らない歴史」
「ブラジルの歴史は到底500年では済みません。にもかかわらず『ブラジル歴史500年説』に固執した結果、勝者・侵略者の英雄が描かれました。彼らはモニュメントになり、道の名前とされています。
例えば、1500年に南アメリカへ遠征したカブラル、実際は盗人なのにブラジルの『発見者』とされています。ポルトガル王国の王子で1822年にブラジル帝国を建国したペドロ1世、実際はブラジルにボリーバルやサン・マルティンのような指導者が生まれる機会を奪ったのに『独立の英雄』とされています。1889年にクーデターでブラジル合衆国を建てた軍人デオドロ・ダ・フォンセカ、実際は民衆の政治参加がないのに、共和制の象徴として18世紀にポルトガル支配に抗ったチランデンチスを祭り上げました。1964年にクーデターで権力を奪取し軍政を敷いたカステロ・ブランコ将軍(1964-1966)、すべての民主的自由と憲法上の権利を停止したコスタ・イ・シウヴァ政権(1967-1969)、組織的な拷問と暗殺で言論を弾圧したメヂシ政権(1969-1974)。これら軍政下で起きた人権侵害や汚職、殺人は語られません。事もあろうに、再民主化した1985年〜現在でも、軍人らの名は高速道路や橋、サッカースタジアムに付けられています。しかも、軍政への回帰を訴える人々すらいます。」
注)現職の大統領ジャイール・ボルソナロ(1955-)は退役の陸軍大尉。
2018年3月14日、リオデジャネイロ市北部のEstácio(エスタシオ)でマリエル・フランコ市議が暗殺されました。同市北部のファヴェーラMaré(マレ)で生まれ育ち、2016年に選出された市議は、フェミニズモと人権を擁護し、連邦政府の干渉および軍警察の権力濫用を批判・告訴していました。
1984年 パレード専用会場のサプカイが竣工し、リオのカーニバルが現在の形になる
1985年 ブラジルで民主政がはじまる
リオのカーニバルは「新たなブラジル」の象徴です。
▼リオ市シネランジア広場、市議会前にマリエルの紹介が。
「マリエル・フランコ市議(1979-2018)黒人女性、ファベーラ出身、LGBT、人権擁護家:2018年3月14日、公平な社会を目指し闘ったために惨殺された」
▼歌詞
▼楽曲はこちら
▼パレードはこちら
▼参考
・テーマ概要 ① ② ③
・語られた英雄たちの一覧
・パレード写真集 ① ② ③
(おわり)
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