傷
ルイは傷だらけのまま大学に向かった。
いつも通り授業を受ける。
大学の授業はいつもあまり聞いていなかったが、今日は全く聞こえてこなかった。それどころではない。
「私はこの先、どうなってしまうんだろう…。」
どうしようもない不安にかられていた。
教室を出ると、赤髪のチャラそうな男がルイに向かって歩いてきた。タケシだった。
「ルイ!よぉ、来てたんだな。」
「髪、染めたんだ。誰かと思った。なんかチャラくなったね。」
「今度ライブだからな、気合い入れようかと思って。」
タケシはバンドマンだった。外見はカッコ良くて性格も明るく、歌も上手かったので昔からモテモテだった。
バレンタインは毎年チョコレートを大量に貰い、食べきれないからと言って、ルイにくれた。
ルイにとっては家族のような存在で、異性として意識したことはなかったが…。
「そうなんだ。黒髪良かったけど、赤も似合ってるね。」
「ありがとな。まぁ俺なんでも似合っちゃうからさ。…そんなことよりも、お前顔の傷、どうしたんだよ。猫に引っ掻かれでもしたのか?」
「まぁ、似たようなことかもしれないけど違うよ。」
「じゃあどうしたんだよ。もしかして男か?」
「違うよ。」
「じゃあなんだよ。言えよ。」
タケシの顔は真剣だった。
「夢だよ。」
「あ?」
「夢の中で、敵にやられたの。」
タケシは訳がわからない顔をしていた。
「ハァ…、またか。」
「タケシ…助けてほしい。」
「いや、助けらんねぇよ。どうやってお前の夢の中に入って、その敵と戦えばいんだよ。」
「それは、わからないけど。」
「お前、夢遊病なんじゃねえの?もう一回病院に行ったら?」
「そしたら、入院になるのかなぁ…。お金ないし、親に心配かけたくない。」
「いや、もうそれは心配かけても仕方ないレベルだろ。」
「タケシ、でもね…絶対夢じゃないんだ。」
「は?夢だって言っただろ?」
「夢だけど、夢じゃないの。」
「…わかったよ。心配だから俺が今日からお前と一緒に寝てやるよ。」
「…ありがとう!」
ルイは嬉しくてタケシに抱きついた。
昔から困った時はいつも助けてくれる…、ルイにとってタケシは頼れる兄のような存在だった。
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