新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~ 感想
楽しかった~!!!
…すみません。新ハムレット、とっても楽しくて、しかも遠征だったので諸々含めて本当に楽しくて、思わず「楽しかった~!!!」が出てしまいました。ほぼ修学旅行帰りの学生…!落ち着きますね。感想を書きます。
以下、あらゆるネタバレをしているのでお気をつけください!
①予習について
原作は数行読んでから「やっぱりまっさらな状態で観たいな」と思い未読、シェイクスピアのハムレットも未読。太宰の作品は国語の授業で読んだことがあるくらい。それでも全然楽しめた~!何かしっかり準備しないと観劇出来ない作品じゃなかったし、観たあとは逆にもっと知りたい!となる探求心をくすぐられる舞台でした。
②登場人物たちについて
この時代の、結構近い間柄でも敬語で会話する雰囲気が好きで、始めはその落ち着いた感じで人物も描かれるのかな~と思ったら、ハムレットもオフヰリヤもホレーショーも、感覚としてはちょっと大人っぽい中学生くらいに見えました。王子、城に出入りする地位の女性、王子のご学友だから立場上身に付けた品や立ち居振舞いはあるけどまだ子供だよ!みたいな。
ここ、私としてはすごく意外で、面白かったです。もっと登場人物たちは精神年齢が高くて、高尚な悩みを抱えており、哲学的な問いの答えでも求めているのかと思ったら、誰も彼もめっちゃ俗物~!!!君の悩み、すんごい分かるよ!私もそれで悩んでたことあった~!いや、やっぱわかんないかも!とか、それこそ中学時代の友達と話す感覚で脳内で会話してました。新感覚。観客として必死に行間を読まねば何もわからない前提で行ったので、びっくりした。
・ハムレット
(木村達成さん)
彼の言動、すべて身に覚えがあって死ぬかと思いました。気恥ずかしさで。
大人への相手がこちらの理想通りでないと許せない傲慢さ潔癖さ、真剣な苦悩を「若さ」で片付けられる怒り、愛の解釈についてとか、思春期の自分そのもの…?
ハムレットは劇中でしょっちゅう怒っていますが、私もあの頃、よく怒ってたな。今では昔の自分の情熱に燃やされそうです。私も堕落しちゃった…。
さて、好きだったのはオフヰリヤとの場面。
「ハムレット様のお子を丈夫に育てます」と語っているオフヰリヤに対して、ハムレットがうっとりと目を瞑って、嬉しくて仕方ないように微笑んでいてびっくりしました。
「彼女とは結婚するので」みたいな台詞がどこか投げやりだったり、もうちょっと遊びたかったみたいなこと言ってるけどハムレット、オフヰリヤのこと大好きでは?「愛とは言葉かそうでないか」の議論の時にオフヰリヤからの言葉を期待して、ニヤニヤしながら彼女の顔を覗き込み、オフマイクで「はいっ!」って背筋を伸ばしていうところなんて胸が焼けるような恋の表現でめちゃめちゃ可愛かった。でも基本、彼女との関係では彼女に主導権があって振り回されてるのも良かった~!ハムレットは身分が高いし、オフヰリヤは妊娠していて一家没落の憂き目に遭いそうな中、もしハムレットの当たりが強かったら…そこまでいくと「情けない」どころか「ほんまもんのクズ」(言い方)になってしまい、全然共感できる人物ではなくなってしまうので…。
そして、最後。全然分からなくて考え続けていたんですが、彼はなぜ叔父を刺さずに自分の頬を切ったのか。私はこれ、生きていく覚悟が決まったからかなと思いました。
頬を切ったのは気合いを入れる時に自分の頬を叩くような意味であり、全ての真実を知って彼が出した答えは「to be=生きる」で、ずっと死んで苦しみから逃れるか生きるか悩んでいたけれど、「疑惑を死ぬまで持ちつづけ」ながら生きる選択をした、現実と向き合うことに決めたんだと私は感じました。
これだと叔父を殺さない答えにはならないんだけど、極端なことを言えば復讐などどうでも良く、自分がどう生きていくかを決めることが重要で、全てだった。このあとのノルウェーとの戦争にはこの状況じゃ絶対負けるだろうけど、どうなるのかな。叔父は確実に捕らえられて処刑、ハムレットも同じか、もしくは名ばかりの玉座にオフヰリヤと座らせられて傀儡政権?この時代のヨーロッパ詳しくなくて全然分からない…。でもどんな道になっても、ハムレットが自分から死んだりする姿は想像出来ない。そういう終わりでした。
・オフヰリヤ
(島崎遥香さん)
泣いたり、何も言わなかったりの場面が最初続いたので、この時代の女性の典型として描かれるのかな?と思ったらバリバリハムレットに文句申し立ててて笑いました。ものの考言い方、ほぼ現代女性。彼女も色んな考えの狭間にいて行ったり来たりしてるんだけど、そういう自分を受け入れていて、おおらか。どの人物より生き残りそう。
ポップで、圧はないけどしっかり自分を持ってマイペースに生きてる雰囲気好き。ぱるるさんオフヰリヤのたたずまい素敵だった~!
・ホレーショー
(加藤諒さん)
プロレスのシーン好き。中学の時、あんな真剣にじゃないけど教室で男子がやってたの思い出しました。彼が出てくるとなごむし色んな人に(メンタル的にも身体的にも)ボッコボコにされてて可哀想なんだけど、引っ掻き回してるのも彼。加藤さんホレーショーは、それなのにいじらしいというか、憎めない愛らしい人物だった…!
③作品の解釈について
面白いし笑えるし、一見分かりやすいんだけど、台詞の真意を考え始めると蟻地獄というか答えが見えなくて、これ本当はすっごく難解な作品なんだ!と気付かされました。でもエンタメとして楽しいのでイヤにならない。凄い舞台を観てしまった。
④観劇後
以下の書籍を読みました!
・新ハムレット
(太宰治)
やっぱり太宰作品、文章が読みやすい。ただ今回の舞台では、現代人とあまりにかけ離れた価値観から出る台詞は削ってあったんだな~と知りました。当時の日本の雰囲気がよく分かる。
・今回の舞台のパンフレット
当たり前だけど、役者さんや演出家さん始め今回の舞台に関わった方のインタビュー読むのが一番理解が進む…!(気がする!)コラムで時代背景や太宰、ハムレットの解説があるのも読み応えあった。
・NHK「100分de名著」 ブックス シェイクスピア ハムレット~悩みを乗り越えて悟りへ~
(河合祥一郎)
いきなり原典にあたっても理解出来る気がしなかったので、解説本に頼りました!100分de名著シリーズ色んな方が参加されてますが、作品の解像度が一気に上がって楽しい。
こちらでは宗教観、生死、芝居と現実など色々な要素が二重構造になっていることを指摘されていて、そういう手法を取っているからこの作品(の原作)は面白いのか~と発見がありました。興味は尽きない!
以上、とんでもなく長い私の独り言です!
気になったところだけでも読んで貰えたら嬉しいです。それでは。