ミュージカル 『ラフへスト〜残されたもの』 感想
こんにちは!みずきと申します。
観たお芝居の感想を書くの、ちょっと久しぶりで勝手を忘れてしまっているのですが、とても素敵な作品だったので文章で残しておきたく。宜しければお付き合いください。
※以下思いっきりネタバレしていますので、お気を付けください。
①全体の印象
思ったより明るかった〜!
事前に見たメインビジュアル、人物紹介とかでもっと暗くてヒリヒリするようなストーリーを想像していたんですが、恋の甘酸っぱさや過去の自分と再会した瞬間の、恥ずかしいけど微笑みたくなるような気持ちを思い出させるところなど、自分の人生に向き合うことの明るい側面に気付かせてくれるような作品でした。とても好きだった!
②ストーリーについて
・過去の自分と出会い直すということ
この作品では、トンリム(若き日のヒャンアン)と現在のヒャンアンが手帳を通して出会い、悩みを相談し合ったり、励まし合ったりしてそれぞれのストーリーが進んでいきます。ヒャンアンから見たトンリムはエネルギーに満ち溢れ輝いてるけど少し危なっかしくて、守ってあげたくなる存在。トンリムから見たヒャンアンは人生経験豊富な大人。でも、それが逆転する瞬間が好きでした。
「あなたの感嘆符を信じて」
「私達の過去は、私がこの時間の中で守っていく!」
とトンリムはヒャンアンに言います。
過去の自分と出会い直して、不安な時かけて欲しかった言葉をかけて、あるいはただ側にいて守ってきたつもりだったのに、気付いたら彼女は人生の真理をもう悟っていた。そして、あたたかく今の自分の背中を押してくれるその姿が、本当にに素敵でした。そしてこの場面を思い出すと、観客の私も過去の自分と出会い直したら何が起こるかな?と考えさせられ…ちょっと試験を受けるような気持ちで怖いけど、あの頃の私が今の私を見たら一体なんて言うのか、聞いてみたい気がします。
・芸術とは何か
「世界中の色で 文字で 私達蘇る」
この歌詞、凄く印象に残りました。今回調べて文学も芸術に入るって初めて知ったんですが、私の場合は昔から本が大好きで本を通して文豪が生きた時代を旅したり、アメリカのティーンエイジャーの青春を追体験したり、今回もある時代を生きた韓国の女性の一生を演劇という芸術から知ったりしていて…芸術は文字通り時を越えて人々の前に現れ、力をくれる。芸術って近寄りがたそうでいてとても身近にある、心強いものだなと思いました。
・トンリムとイ・サン
まさに甘酸っぱい恋!
二人とも尖っててて強がりで、でも確固たる自分の世界を持っているのが魅力的。あとお互いを「正体不明 読書の虫」「世界と闘う角砂糖」と呼び合ってるの面白い。純度が高い感情をストレートにぶつけ合うから傷つけ合ってもいるんだけど、この時誰かと惹かれ合うなら、お互いしかいなかったんだろうなと思う二人。願わくばイ・サンの人生にもう少し時間が欲しかった…!
・ヒャンアンとファンギ
トンリムとイ・サンの出会いもそうだけど、「あの人が気になる、仲良くなりたい」って時に自分が描いた絵や文章を贈って「どうしよう、届いてない?!それとも拙すぎて返事書く気にならないのかな…」ってジタバタしながら待ってるのめっちゃ共感しました。私も昔からネットで友達ほしいってなった時はまずブログとか書いて「こんな人間です!もし良かったらお友達になってくださ〜い!!!」してきたので分かるよ…と。シュチュエーションちょっと違うけど。そして謙虚ながらもどっしりした安心感があるファンギ&ちょっと新しい恋に怯えてるけど徐々に自信を取り戻していくヒャンアン、見ていて微笑ましかった〜!!!お互いを肯定して本来の自分でいられるカップル、理想的です。
③キャストの方について
ソニンさん / キム・ヒャンアン役
作中で晩年から徐々に若返っていくのですが、老人らしい仕草や声のかすれをなんの違和感もなく表現されていて、ずっと「凄い…」って心で呟いてました。カッコ良い…。
ヒャンアンは経験に裏打ちされた自信を持っていて頼もしいんだけど、逆にその経験が彼女を縛ってもいて動けなくなるあの感じ、分かる〜!!!と思いながら見ていました。ラストの出会いの場面、愛らしくて大好きです。
古屋敬多さん / キム・ファンギ役
可愛い〜!!!!!
突然の「可愛い〜!」、すみません。でもすっごく透明感があって可愛らしかったのが印象に残っていて、思わず叫んでしまいました。このミュージカルで初めて古屋さんを知ったのですが、伸びやかな歌声と穏やかな空気をまとった古屋ファンギ、ほんとに可愛かった…。
相葉裕樹さん / イ・サン役
相葉さんのイ・サン、キラキラの容姿に聡明さにと凡人では望めないものをほとんど持っているからこそ、手の届かないものがあるのが許せない節があるな…と思いながら見ていました。どうしたら彼が幸せになれたか、観劇後ずっと考えていたんですが、多分彼、自分の詩が生前に評価されて大評判になっていたらなっていたで「誰も情けない本当の僕を知らない…」って孤独を感じていそうなんですよね。もう少し寿命があれば彼の焦りや憤り、無力感が少しは癒されて何か変わったかも知れないけれどそうはならず…。そして唯一の理解者であるトンリムに対しては、強い劣等感を覚えている。その理由は彼女が健康であること、社会の理不尽に自分のように押し潰されず堂々と声をあげて反論できること、色々あるけど本当に彼にとって完璧な伴侶であるが故に眩しすぎたんだろうなと。
自分に納得出来ないで、自分を否定し続けている姿は10代の自分を思い出して辛かったし、結果彼は苦悩したまま死ぬけれど、文学として作品が残ったことで「死=すべての終わり」にならず、彼の作品と対峙して彼と対話している人が今この瞬間もいるであろうことが、この作品の描いている芸術の救いでもあるのかなと思います。
山口乃々華さん / ピョン・トンリム役
こんな素敵な役者さん知れて嬉しい!の気持ちです。歌もパワフルで、お芝居でも「冒険はしてみなくっちゃ!」と必死に勇気を奮い立たせて言っていた頃から、色々な出来事を経て強く変わっていく姿が印象に残りました。着眼点が鋭く聡明な部分と、恋にフルスロットルでぶつかっていく猪突猛進なキャラが共存してて矛盾してなく見れるの凄い。全然告白されなくて「私が言おうか?!!!」って後ろ姿に向かって言ってるところも表情や動きが面白くて好きでした。
あと作中でちょくちょくイ・サンの真似をするパートがあるけれど、めっちゃキザでトンリムから見たイ・サンってこうなんだ…ってちょっと笑いました。イ・サン、カッコつけがちで可愛い。
・パンフレットについて
各ナンバーの説明がとても丁寧!深いところまで知れてとっても嬉しかったです。よく演劇は「あとはお客様の中で答えを見つけてほしい」って言われてこちらに演出の意図が説明されないことめっちゃ多いな〜って思ってるんですけど、ちゃんと考えて、自分で「こうかな?」って思ってから読むから教えてほしい〜、制作側の意図が知れて初めて分かることもある!と常々感じてるので、「感じ方は自由だけどこういう風に考えて、こう解釈して作ったよ!」ってたっぷり解説あるの本当にありがたかったです。そして女性スタッフの多さ!責任のあるポジションをこれだけ女性が占めているの、ほとんど見ないのでそれも嬉しかった。また、パンフレットでおすすめされていた「ハングルへの旅」も読みました。「わたしが一番きれいだったとき」の茨木のり子さんが書かれたエッセイなのですが、80年代の日本で韓国語を学んでいた彼女から見た韓国が知れるの楽しかったな。
以上です!長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。