『バスタフェロウズ2』モズルート感想
以下『バスタフェロウズ』全テキスト及び『バスタフェロウズ2』モズ√ネタバレを含みます。
ちょくちょくテウタの言葉を噛み締めるように目を閉じるモズ。
彼女は言葉の取り出し方が上手いから、恋人に向ける独占欲とか両親に積極的に紹介しようとする姿勢とかで「あなたは特別な存在ですよ」をマメに伝えられる人で、それが堪らないんだと思った。
テウタ、めちゃくちゃ可愛い。恋人に向ける声のトーンや柔らかさは第1作序盤とそう変わらないけど、発言の内容は割とわがままになってきてて恋人の前に「私はこう思うから、あなたにこうしてほしいな」をわかりやすく並べて開示できる人なんだなって感じる。
きっとモズのハッピーな気持ちは黄色で抽出出来ることが多いだろうから、そういう色彩で見える彼女を大事に目に含んでいるように見えました。
前作にてシュウはテウタの家族に対して、かなり丁寧に言葉を尽くして信頼をしてもらえるように努めていたように思います。一方でモズは、アダムやシュウといった仲間達に対してとほぼ変わらない口調で恋人の父母と話す。態度は一切変わらずに、何を語るべきかだけに注力してる。
この辺同じクール属性に分類される人でも真逆だよな……出来る限り襟を正すシュウと、素を見せることで害は無いことを示そうとしてるモズ。恋人としてはシュウの姿がギャップがあって微笑ましくて、とても好きです。
ヤーラ、モズからテウタのことを「すごく素敵な彼女さん」と聞いてると話すけどさあ、その「彼女さん」の語尾が微妙に上がってるところだけで、ダウトセンサーがけたたましく鳴り出した。
その後の恋人同士の会話のよそで、アップになるヤーラの顔よ……胡乱な目で、恐ろしかった。
ヘルベチカとラーヤの会話、ヒリヒリしたなあ。こちらが投げ入れた餌に相手が食い付いて、ああやっぱりって思った時って良い気持ちはしないじゃないですか。
これほど良い「ふうん……」は無いぞ。含みがありますよ〜を9割覆い隠した相槌として、10000点の相槌でした。サイコー!(楽しみ方が最悪)
彼のテウタへの忠告も依存にフォーカスしていて、前作からの積み重ねをしっかり効かせていて堪りませんでした。minetakaさんどんどん好きになる。
ダヒは否定的だったけども「さあ、しっかり食べて次の戦いに挑まねばね」って、生きていこうねの祈りとしてとても健康的で、私は大好きなんですよ。三澄ミコトじゃん?
私は自分の感情を並べる外部デバイスとして、信用のおける人間を使っているなと思うことがある。言語化すると何が良いかというと、誰かの前でわかりやすく言葉を並べることによって自分も改めてその感情の形や輪郭を確かめられると思うから。今、私はこんなふうに感じてるよ!!を証明したくて書いてる。
シェアハウスでエロいこと起きてないか?に、恐らく翌日の朝ごはん準備賭けてる男達。趣味悪いけどめちゃくちゃおもろい。クロちゃん、ごめんね。
皆大人だから、俺今日テウタと良い感じになるから邪魔すんなよ!をオブラートに包んで言うのが巧いよ〜!CERO-Cありがとう。
あの……急に『パーフェクトブルー』が始まったんですが……小さく悲鳴をあげてしまった。これにいつものBGMは呑気すぎる!!!!嘘やろ!?鳥肌立ったわ。
ユノ、女子会に巻き込まれて無茶振りに付き合わされても、とてもスマートで良い人だなあ。有名になっても驕らないで、まともで。こういうインフルエンサーが増えてくれ。ところで、このルートで一番のイケメンはルカ。もしくはヘルベチカだと思うんです。大好き。
バスタフェは、「聞いて」ってモズに何回言わせるんだ?モズは話したいと思った時にしか口を開かない人だからこそ、無理矢理マイク持たせるのが上手すぎるだろ。つまりハプニングというか、心穏やかでない事件が頻発するということなんですが。
ヤーラは線の細くてか弱い女性なのに、前作で出会った誰よりも、キレ散らかしてるシュウよりも傍観者面してるサウリよりも、ずっと恐ろしい。イカれてる。言ってること全てがチグハグで自分本位で会話が成立しない。
精神的に酷く傷付いて疾患を抱えた人がどれだけ異常かを、ずっと突き付けてくる。自分の外見を相手の意のままに変えることも暴力も、性暴力だって相手の許しを請うためならって受け入れると語るのに、人を殴ることだけは出来ないって訴えるんだよ。
彼女が完全に悪人と言い切れない側面が見え隠れするところが、何よりタチが悪い。
バスタフェシリーズ、恐らくアンチ乙女ゲームの側面を持ってる。普通に人がバカスカ命を落とすし、この街にはドラッグや移民問題が横行してたりと社会問題にも片足突っ込んでる。
第一作のラストとか特に「乙女ゲームはカウンセリングゲーム」的論調に中指立ててる構図だと思うんです。
作中でニッコリしながら心理テスト仕掛けてくるサウリ、ある意味一番悪人と呼べそうな素質を持ってますもの。杉田さんはインタビューが巧いね……ときメモ3の琉夏への言及にて、儚くて綺麗な花束みたいな言葉を選んでたのが印象的すぎて、めちゃくちゃ信頼してる。
このアンチ加減、『ウーユリーフの処方箋』に近い気がする。
乙女ゲームの企画段階でペルソナにどうやってアプローチするかを詳らかにしてたり、「ソシャゲで短い話をつらつら並べるのって忙しい社会人でも読めるようにって名目だけど、早く読み進めたいと思わせて課金誘導の為だよね」とかシナリオ中で言及してる、イケメンばっかり出てくるゲームです✨
公式サイトにも「現実に疲れたあなたに」って書いてあるので、精神が健康な時のプレイを推奨します。
テウタの兄であるゾラを決して善人として描かないと同時に、やっぱりテウタにとっては頼れる兄であった側面もきちんと描いてる。
そしてドラッグや酒に溺れて精神疾患も抱いていただろう彼の最悪な瞬間が、家族のみではなく妹を大事に想う親友にも暗い影を落とし続けていることも。
創作物の家族って優しくて明るい方向かとことん毒で忌避したいタイプかの基本その2択じゃないですか。ゾラは『MIU404』の青池透子の逆をいってるというか、「最後に一つだけ」で妹の人間関係も巻き込んで自爆する最悪のぶっ壊れ方しちゃった人だと思っています。
普通死人って多少なりとも美化されるものなのに、親友とは変わらず付き合っていきたい以上目を逸らせもしない酷さ。こういうところにライターの性癖出てるって。minetakaさんさ、人の心無いよね、やっぱり。
自分の意志が無くてきっと過去のトラウマや精神状態も重なっているからこそ、従属する安心感に身を委ねたい。愛しているから、私はあなたにこういう容姿でいてほしいしこういう服を着て欲しいし何でも受け入れて欲しい。ガチガチに他人を縛ろうとする鎖しか、愛と認識できない歪み。
「本当に助けが必要な人は、助けたいと思う形をしていない」みたいな言葉は、強烈な皮肉なのにどうしようもない真実だと思っててどこかでずっと考えている。
私はヤーラに対して、モズやテウタのようには決して寄り添えない薄情な奴なんですよ。何なら周りにこういう人がいると相手の激しい喜怒哀楽に巻き込まれて、自分が努めて安定させてる感情のコップも波立たせられることにストレスを感じてしまう。
自分の不機嫌さを明け透けにして、周りの人に気を遣ってもらって自分のご機嫌取りをしてもらおうとする人、嫌いなんだよなあ……
ある種のマッチョイズムというか、他人をコントロールしようとする姿勢が腹立たしい。病気のせいだとしても、許容出来る心の広さを持ち合わせてない。
ヤーラが暴走すればするほど、テウタとモズの2人の空間で流れるBGMとして米津玄師の『がらくた』の音量が上がっていくように見えました。
私は歪んでるキャラクターが割と好きだし、他人を頭からバリバリ食べてでも生きてやろうとする図太さは割と好ましいなと思う。基本主人公の後方腕組み父親面背後霊やってるから、主人公の夢を砕こうとする奴は嫌いなんだけども、キャラクターとしては好きだったりする。(例:『ジャックジャンヌ』百無客人、『MIU404』久住)
でも、私の中のヤーラは曲にならないんだよなあ……破滅への扉はバッタンバッタンする癖に、生に執着しようとする姿勢とはまた違う世界の住人に感じてしまう。
好きなタイプの歪みとは異なるから、彼女を完全に嫌いにはならないけど遠ざけたくなってしまう。私にはヘルベチカと似たつつき方しか出来ない。
リンボとシュウの朝食のやりとりといい、このルートマジでクロちゃんは登場が最低限に留められてるなと思いました。多分お兄ちゃんの話したいからだよね。
モズはクロちゃんよりも歳上だけども、6人の中では下から数えた方が早い人だし。
「人間は、意外としぶとい」ことはグッドエンドであればテウタが無事であったことからも描かれるけども、そうだとしても先生の死からは逃れられない。本当にモズの周りには死の香りが多い。バッドエンドはそのままテウタを失うエンドだし、それは現在のモズの職業や献体への価値観もろとも覆す事態だと推察出来る。
モズが身の回りの死を直視し続けて積みあがったジェンガが根こそぎ破壊される別れが、テウタとの死別なのか……いつもの冷静で論理的なモズが思考出来なくなるって、相当でしょう。あまりにも趣味悪いけど、個人的には彼がテウタの不在による辛酸を舐めて、血反吐吐きながらそれでも生きていく姿は見たくなってしまった。
死者は死という決定的な断絶を経てるからこそ、残された生者にとってどんな友人家族よりも近くにいる場合がある。生きてる人について考える時、それは生きてるからこそ像が流動的でぼんやりしたものになるように思う。
特にエクストラエピソードでは、両方アイデンティティーの確立の話をしてるように思います。
ケチャップって犬に名付けるセンス、めちゃくちゃ可愛いね!モズって自分が似てると思った感覚を取り逃がさないでいられるタイプだよね。感想文書くの向いてるタイプだろ。モズ、キンドラ見てくれ。初見感想文絶対バズるぞ。
ダヒ、とても良いキャラしてますよね。真面目だけど堅物すぎなくて強張ってる肩の力が抜けてるようなこの話や、モズとお揃いになった折り畳み傘の話もモズの魅力を引き立ててる。モズの傘は良い模倣例、ヤーラは悪例なんだろうな……
度々言及しているのですが私は名前フェチでして、ハイキューの強強ネームに尽く打ちのめされています。主人公組はともかく、小さな巨人組とキャプテン組は名前の輝きがとんでもない。茂庭要に及川徹、孤爪研磨が好きすぎるんだ。
名前って人のことを考える時に真っ先に口に入れる飴ちゃんだと思ってて、その飴の味が無限に吸い尽くせることがある。その名前から好きになると、推しとして固定されがち。
ヤーラが金髪にしたあたりは『パーフェクトブルー』のルミにしか見えなかった。2人とも廃人化するラストは共通するけども、ルミは自我が強烈で執念深いからこそ自身を未麻と思い込んだままでいる。最後の「私は本物だよ」の強かな笑みも含めて、ルミの暴走によって揺るがない自我を得た未麻は超強い女で好きだけども。
一方でヤーラは自我を殺し切ってしまったから、本編のラストシーンで自分の名前すら正しく認知出来ない。なんかここ見て、決定打的に萎えちゃったんですよね。私にとってはヤーラって自我が無さすぎて、全く面白くないキャラクターなんだなあ。
外見的な意味じゃなくて、モズの言う本質が美しい人はルミよりもヤーラなんだと思うんだけど、彼女の本来持つ精神性の美しさすらも完全に損ね切ってしまうくらいに、精神疾患の影響は大きいって話をしてるのがモズルートのように思います。
実の兄妹の喪失を背負った2人の傷の舐め合いにさせてたまるかってライターのプライドを感じるくらい、精神的苦痛を強いるシナリオで苦しかった分最高に面白かったです。
先生の名前のアーチーは純正、大胆、勇敢などを語源とするようで、ヤーラは強さと勇気といった意味があるらしい。(ダヒは見つけられなかった……)
人間は強い。最後までどう生きるかを自分で選択した先生は勿論、恐らくヤーラも今生きてること自体が素晴らしい選択なんだろう。
私は、辛い思いをした上で生を手放さない選択をしている人には生きていくことで沢山ささやかな幸せが降り注いでほしいし、MIU404の久住みたいな奴には生きろっていう呪いがかけられていてほしいよ。ヤーラはどちらだろうな。それを選ぶのが今後のヤーラの課題なんだろうな。
その中でどう生きようねって悩み続けることは、人生できっと最良の選択をする唯一の道だと思う。
本編ラスト、無神教の彼が教会にて願う外で夜空の星が流れるのめちゃくちゃ良い。流れ星に願い事をすることが未来への祈りだから。身近な死から目を背けずに生きることは、未来に向かって希望を持つことと密接に繋がっている。
恐らく賛否両論あるだろうと思って他の方の感想もチラ見したけれど、まあ胃がキリキリする√であることは間違いないなと思います。私もヤーラ嫌いなんだよねって感想が1/3くらいを占めているし。
それでも前作に引き続き、未来への布石が散りばめられてて「生きていこうね」の願いが込められているだろうこの√が、とても好きです。、
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