呪いの連鎖
171: 本当にあった怖い名無し:2007/05/25(金)
ここの住人に聞きたい。呪いって信じる?
俺は心霊現象とかの類は、まったく気にとめる人間じゃない。
だから、呪いなんか端から信じていない。
呪いが存在するなら、俺自身この世にはもう居ないはずだから。
自分自身で書くのも嫌になるが、今までもの凄い数の人たちを傷つけてた。
さすがに人を殺すような事はしてこなかったが、何人もの女の人生を台無しにしてきた。
ヘルス嬢になった奴。ソープ嬢になった奴。そしてAV嬢。
こんな俺だから、もし呪いが存在するなら、俺は生きていないはず。
そんなくだらない俺にでも、心から信頼出来る友達がいた。
今から書く話はそいつの話。本当に長くなるから、うざかったらアボンしてくれ。
今から1年半程まえに、俺は友達に呼び出された。
その時はお互い仕事が忙しく、会うのは約3ヶ月ぶり位だったと思う。
呼び出された場所に向かうと、俺よりも早く友達のAがいた。
「おー早いじゃん」
俺はそう言ってAに話しかけた。
笑いながらAは、「たまには早くくるさ」
そう言い終わると、Aの顔から笑みが消えていった。
いつもなら飲みに行って話をするのだが、何となくその日はそんな雰囲気ではなかった。
笑みが消えた後のAの顔が、それを物語っていた。
「どうしても聞いて欲しいことがあるから、家に来てくれないか」
Aの顔に全く余裕が感じられない・・・。
「何かあったのか?」
俺の問いにAは、「家で話すわ」
そう言い終わると、足早にその場を離れた。
Aの自宅に着き、Aは話し始めた。
「兄貴が仕事中に死んだ」
そう聞いた俺は、「えっ兄貴は2年前に死んだんじゃなかったの?」
思わず聞き返した。
「2年前に死んだのは長男。今回死んだのは次男なんだ」
思わず言葉が出てこなかった。
仕事中の事故死らしい。Aの次男が勤めていたのは、ある大手タイヤ工場だった。
その工場で、主に工作機械のメンテナンスをする仕事をしていたそうだ。
作業後のメンテナンスのために整備していた所、大型の工作機械が突然作動し、
その機械に頭部を挟まれAの次男は亡くなった。即死だったそうだ。
それを聞かされて俺は、Aに対して余計に何も言えなくなった。
「2年前に、上の兄貴が事故で死んだときもおかしかったんだ」
長男の事故の話だった。
Aの長男は家族3人で、移動中に大型トラックに正面衝突を起こしていたのだ。
「あの時も即死だった。3人ともな」
Aの顔は、何かに怒っているように見えた。
その事故は、片側2車線の道路で起こった。
現場検証では、Aの兄が反対車線に入り走行した事が原因とされていた。
トラックの運転手の話では、よける間も無いくらいの出来事だったらしい。
Aの言う妙な事とは、突然車線を変えたのもそうだし、
ブレーキペダルとフロアの間に、猫が入り込んでいた事だそうだ。
当然その猫も生きてはいなかった。
「ぶつかる寸前にブレーキをかけたんだろうけど、間に猫がいて効きが悪かったのかもしれない。
効いてても回避する事は出来なかったんだろうけどさ」
「猫なんか飼ってなかったのに」
それを聞いて俺は、「途中で拾ったのかもしれない」
そうAに言うと、「それは絶対にない。猫嫌いだもん」
しばらくAは黙っていた。
俺は少しで気をまぎらわしてやろうと思い、買い物に行きビールなどを調達してきた。
買い物から戻りAにビールを渡し、話の続きを聞いた。
「俺これで天涯孤独になっちゃった」
Aはそう呟いた。
Aの母親は幼稚園の頃に亡くなり、父親は4年前に亡くなっていた。
もう家族で残されたのはA一人だった。
Aの表情はとても寂しげに映った。
その表情が突然変わり、Aは俺に聞いてきた。
「なー呪いって信じる?」
思わず呆気にとられてしまった。
「たまにテレビでやってる、木とかにこんこん釘打ったりするやつ?」
俺はあり得ないという表情で答えてやった。
俺のそんな答えに動ずることなくAは喋り始めた。
「兄貴2人。そして父親も、呪いで死んだのかもしれない」
そこからその話は始まった。
Aは幼少の頃の話を聞かせてくれた。
そこは普通の田舎町で、これから話す、不可思議な事件が起こりそうな場所では無かったらしい。
Aの実家の近くには、子供心に相手にしたくない家があったそうだ。
ただ単純に、その家のおばさんの見てくれがもの凄く怖かった、というのが理由だそうだ。
野球をしているときに、たまたまボールがその家の庭先に入ってしまい、
しかたなく挨拶をしてボールを取ろうとしたときに、
そのおばさんに鎌を持って怒鳴られたそうだ。
そんなこともあり、その家は子供にとっては恐怖の対象でしかなかった。
小学2年の頃、夜中に我慢が出来なくなりトイレに起きた時の話では、
ザク、ザクと物音が聞こえてきて、トイレの小さな窓から覗くと、
そこには鎌を庭にある大きな木に向かって、何度も突き立てるおばさんの姿があった。
とにかく、その光景があまりにも怖すぎて、その晩は寝ることも出来なかったらしい。
翌日、学校に向かう途中で恐る恐るその木を確認すると、
確かに無数の傷と大きな釘が1本刺さっていたそうだ。
子供の頃は、ただ単純に怖かっただけなんだけど、
今思えばあのおばさんには同情するところはかなりある。
その家の主人はもの凄い酒乱で、毎晩のように飲んでは暴れていた。
あの当時は精神的にかなり参っていたんだろう。
Aはそう言いながら話を続けた。
それから数ヶ月が過ぎ、最初の事件が起こった。
下校途中にAと3人の子供達が、あの家の大きな木の下に、人が倒れているのを発見した。
4人で最初は寝てるのかとも思ったらしい。
それでも気になって、他の子が親を呼んで確認させたところ、すぐに救急車が呼ばれた。
倒れていたのは、その家の主人だったそうだ。
すでに息はなく、死因は心臓発作との事だった。
近所の人の知らせで、農作業に出かけていたおばさんも呼び出され、すぐに病院に向かっていった。
子供だったAは震えていたそうだ。
死体を見た恐怖と、あの晩のおばさんの奇妙な行動が重なって、余計に怖かったらしい。
それから、おばさんは人が変わったように明るくなっていた。前とは比べられない程に。
でも、おばさんの笑顔は長くは続かなかった。
その家には2人の息子がいたが、2人ともその家にはいなかった。
次男は人柄もよく真面目で、結婚をして家を構えていたのだが、
長男は父親に似て酒乱がたたり、定職にもつけなかった。
父親が死に、母親の面倒を見るという名目で、長男は家に戻ってきた。
おばさんにとっては、今まで以上に辛い日々になっていったのだそうだ。
昼間から酒を飲んでは母親に暴力を振るい、近所から何度注意されても直る事は無かった。
母親に対する暴力に、次男も何度も抗議に来ていたようだ。
数日が過ぎた晩、Aは家族で食事をしていた。
すると玄関を激しく叩き、父親を呼ぶ声がする。声の主は、隣に住むお姉さんだった。
「向こうの木の下に人が倒れている」
そう言ってお姉さんが震えていた。
すぐに父親が確認に向かった。
そして確認して戻ると救急車を呼び、子供達に一歩も家を出るなと言い残して、
また出ていった。
しばらくして救急車がきて、騒ぎは大きくなり始めた。
窓越しに確認すると、今度はパトカーまで来ていたそうだ。
その騒ぎは一晩中続いた。
翌日の朝、殺人事件が起こったことを知った。
殺されたのは、あの家の長男だった。鍬で頭部をめった打ちにしての殺害だった。
めった打ちにした場所は家の裏だったらしいが、最後の力を振り絞って、
人の目に触れるあの大きな木の下までたどり着いて、そこで息絶えたらしい。
家にいたおばさんが自分がやったと証言したため、おばさんは警察に連れて行かれたが、
翌日の昼間に次男が出頭してきて、おばさんは家に帰された。
地元の新聞では大きく報道されたそうだ。
次男の判決はさほど重くはならなかった。
動機が母親を助けるためだったのと、周りの証言や、
もしかしたら嘆願書も出ててたかもしれないらしく、
刑は思いのほか軽くすんだそうだ。
次男の刑が確定したその日、おばさんは家の木で首を吊って自殺した。
Aは学校にいたため、事件が起こったことは、家に帰るまで知らなかったらしい。
その家では、2年ほどの間に3人も人が死んでしまった。
あの事件が起こった後は、その家には誰もいないはずなのに、
それ以来その家の前を通るのを止めて、大回りして家に帰るのを選んだそうだ。
自宅の玄関からも見える家なのに。
事件から5年くらいが過ぎた頃、あの家の次男は刑期を終えて戻ってきた。
近所の家を謝罪してまわり、礼を言いながらまわっていた。
Aの家にも訪ねきた。父親が対応して、
「苦しかったね。これから頑張るんだよ」。そう声をかけていた。
元からの次男の性格を知る近所の人達は優しかった。
次男も一生懸命に働き、以前の暮らしを取り戻そうとしていた。
次男の妻も真面目で、主人が逮捕された後も別れることなく、
帰って来る日を待ちながら家を守り続けていた。
2年後、そんな2人に子供が出来た。
近所の人たちはみんな喜んでいた。生まれてくるまでは。
産まれてきたのは男の子だった。でもその子は心臓に障害を持っていた。
それから次男は、その子の手術のために、今まで以上に働いた。子供を助けるために。
それでも間に合わなかった。
男の子は生後半年で、この世を去ってしまった。
それから2ヶ月後、奥さんは焼身自殺をしてしまった。
後を追うように、次男はあの木で首吊り自殺をした。
近所中に重い空気が流れて、やがてよくない噂が流れ始めた。
あの木があると、これからも良くないことが起こるのではないか。
木を切り倒したほうがいいのでは。
みんなが口々に、木のせいにし始めていた。
それでも、誰も木を切ろうとはしなかった。
しばらくして、自殺したおばさんの遠縁にあたるという男2人がやってきて、
「自分たちがこの木を処分します」と言ってきてくれた。
念のためにと2人はお払いをしてもらい、それからチェーンソーを使ってあっさりと切り倒してくれた。
かなり大きな木だったこともあり、倒した後に細かくするのに時間がかかってしまい、
根の部分は後日にするということだった。
それから数日が経っても、根が掘り返されることは無かった。
木を切り倒した人の一人は、酒に酔い3メートル程の側溝に頭から落ちてしまい、脳挫傷で死亡。
もう一人は、噂では農作業中にトラクターが横転し、下敷きになり死亡したと聞いたそうだ。
Aが高校を卒業して町を離れる頃にも、まだその根は残っていたそうだ。
俺とAが出会ったのは、同じ専門学校でのことだった。Aとはそれ以来の付き合いになる。
Aは俺とは違い、頭も良く性格も良かった。
そんな奴だから、就職にも困ることはなかった。俺と違い、Aはすぐに就職した。
Aが就職してからも、俺たちの付き合いは続いた。
会うたびに女のことで説教をされていた事を、今でも思い出す。
就職して3年ほど経過した頃だろうか。それはあまりにも突然だった。
Aの父親が心臓発作で他界した。
Aが言うには、病気など患った事など無かったから、もの凄くショックを受けたらしい。
Aが実家に大急ぎで帰ったとき、すでに二人の兄が帰って来ており、通夜の準備に追われていたそうだ。
それから数日が経ち、葬儀も終え、3人は久しぶりに実家で酒を飲んだそうだ。
その時に長男が、二人の弟に語りかけた。
「二人ともあの家の木を見たか?」
そう言われてAは、次男と顔を見合わせて「何のこと?」。
長男に聞き返した。
「根っこだけ残ってた木のことだよ」
そう言われて二人は、あの木のことかと思い出したらしい。
長男は続けた。
「もう更地になってるんだよ。そして、あの木の根を掘り出したのが親父なんだ」
それを聞いて、Aの中で眠る忌まわしい記憶が蘇ってきた。
次男はいきなり、怒気を強めて長男に食ってかかった。
「ふざけるな。じゃあ親父は、あの木に祟られて死んだっていうのかよ。
ただ掘り返しただけで祟られるのか。馬鹿げてるぞそんなもん」
しばらくみんな黙っていた。
Aは疑問に思ったことを口にした。
「何で親父は木の根を掘り返したんだろ。兄貴は何か聞いてない?」
その問いに対して、二人の兄は首を振るばかりだった。
長男は首を振りながら、
「掘り返した理由は俺にもわからん。だけど掘り返した後、親父は突然死んだ。
どうしても俺には、偶然には思えないんだ」
次男は、「兄貴やめてくれないか」。そう言って話を遮ろうとしたが、それでも長男は話を続けた。
「昨日さ、夢に親父が出てきたんだ。
俺を見ながら、何度もすまないすまないって言うんだよ」
それを聞いた次男は、「何で兄貴の所だけに出て、俺たちの所には出ないんだよ」。
Aを見ながらそう語りかけた。
その問いに対して長男から出た言葉に、二人とも驚いたらしい。
「次は俺なんじゃねーの。だから親父は、俺に謝りに来たんだろ」
二人はそれを聞いて押し黙った。
その日はそれ以上、そのことを3人とも語ろうとはしなかった。
その後、長男の言った一言によって、3人は今まで以上に連絡を取り合うようになったそうだ。
父親の死後1年9ヶ月経った頃、突然長男と連絡が取れなくなった。
次男からもその連絡が来た。家に電話をしても、嫁さんすら出ないとの事だった。
次男は不審に思い、長男の勤める会社に電話したそうだ。
会社から返ってきた言葉は意外だった。1ヶ月ほど前に突然退社したと聞かされた。
二人はすぐに長男の自宅に向かった。
何度呼び鈴を鳴らしても、誰も出てくることはなかった。
不審に思ったのか隣の住人が出てきて、話を聞いてくれた。
すると隣の人は笑いながら、
「3人で旅行に出かけるって言ってましたよ」。そう教えてくれた。
二人にはどうしても納得がいかなかったらしい。
何で俺たちに何も告げずに出かけるんだ?あれだけ密に連絡を取り合ってたのに。
それからすぐに二人は、行きそうな場所として実家に向かった。
主の居なくなった家にたどり着いたが、そこにも3人の姿は無かった。
それから2日後、二人の元に警察から連絡が来た。
長男一家が事故死したと言う知らせだった。
事故の原因は、先に書いた通り不可思議なものだった。
葬儀が終わっても二人は押し黙っていた。
しばらくして二人は、長男一家の家の整理に追われた。
家の片付けをしている時に、Aは長男が残したであろうメモ帳を見つけた。
そこには奇妙なことが書いてあったらしい。
『俺が何をした』
その言葉が、何ページにもわたって書き綴られていたそうだ。
最後のページには、
『俺と○○そして○○これで3人だ。もう終わりにしてくれ。』
次男とAの名前が書かれていた。
それが最後のメモだった。
次男にそれを渡し、Aは押し黙った。
それを見た次男は、「兄貴は神経質すぎたのかもしれない」。
そう言い終えて、次男も黙りこくってしまった。
Aは心底おびえたそうだ。
馬鹿にする次男を無理にさそい、祈祷師やらその手の除霊専門の所を、
何カ所も回ったらしい。
細かく書けば、本当に凄い量になってしまう。
だからかなりはしょってるから、勘弁して欲しい。
長男が亡くなって2年経ち、次男が事故死した。
そしてその話を俺は聞かされた。
呪いと言われても、俺にはどうしてもピンとこなかった。
その話を聞いた後、俺はAに話し出した。
「なあA。もしさ、呪いが存在していたら、俺は絶対に祟られてるよ。
お前も知ってるよな。俺が今まで、色んな女にしてきた仕打ち。
お前が知らない話だってある。それこそ、いつ夜道で刺されてもおかしくないくらいだ。
刺されないにしても、相当恨まれている事は確かだと思う。
現実に呪いが存在するんなら、俺はもう死んでるはず」
でも俺がどんなに語ろうが、Aの周りでは不可解な事が起きているのは事実。
俺自身が一つずつあれやこれや説明しても、納得するわけもなく、話は平行線を辿るだけだった。
Aは俺と話した後に、すぐに所持していた車を処分した。
「車で事故なんて嫌だし」
Aは苦笑いしながらそう言っていた。
それからしばらく、何事もなく過ぎていった。
その間も、俺とAはちょくちょく会っていた。
会って食事したり飲みに行ったりしてた。
しばらく会ってないなと気になりだしたときに、Aから連絡がきた。
『病院にいて暇だから、見舞いにでも来てくれよ。話もあるし』
それを聞いて俺はすぐに病院に向かった。
病室に入りAの姿を見たときは、もの凄くショックだった。
別人かと思うほどやせ細ったAがそこにいた。
動揺してることを悟られたくなかった俺は、
「個室なんてえらい豪勢だな」と笑って語りかけた。
するとAは、「俺これでも結構金持ってるんだよ」。笑いながら答えてくれた。
俺は病気のことは全く無知だからよく知らないが、進行の早い癌だと説明された。
余命3ヶ月。あまりにも突然の宣告だった。
Aは話を続けた。「呪いだよ」。そう言い放った。
俺はすぐさま「あるわけ無い」と食ってかかった。
Aも言い返す。
「じゃあ偶然にも俺たち家族は、こんなにも短期間の間に全員が死ぬのか!」
Aの目は怒りに満ちていたと思う。
話すうちに冷静になったAは、「お前に頼みがあるんだ」。
「俺は出来ることは何でもしてやるから」そう言った。
今になれば、その言葉は言うべきでは無かったと後悔している。
Aの頼みとは、彼女の事だった。
Aは学生の頃から、Bという女と付き合っていた。
Aの彼女だから、俺もよく知っている間柄だった。
本当に良い子なんだ。Aにはお似合いの彼女だった。
「Bの事なんだけどさ。お前、あいつを口説いてくれね」
それを聞かされた瞬間、俺は呆気に取られた。
Aが言うには、病気のことを彼女に話した所、
「今すぐに結婚するんだ」って言われたらしい。
呪いのことは、気が引けるらしく言えなかったそうだ。
まー言ったところで、聞く耳もつ女では無いと思うが。
俺は呆気に取られながらも言い返した。
「俺にも好みはあるんだよ。自己主張のきつい女には興味はない」
それでもAは、「お前以外にそんなこと頼める奴いないんだよ」。
「そりゃそんなアホなこと頼めるのは俺ぐらいだろうけどさ、それは無理な話だ。
俺が俺のままの性格でBの立場でも、別れ無いと思うぞ」
そう言ってたしなめた。
「もしBが俺と結婚したら、どうなると思う?」
Aはそう俺に問いかけた。
「辛いかもしれないけど、本人が望むことなんだから仕方ないだろう」
そう答えるしかなかった。
「結婚して呪いがそのままBにかかったら、俺は死んでも死にきれない」
Aの言葉は切迫していた。
納得いくわけはない。
それでもAが呪いに拘るのであれば、Bと話してみようと俺は思った。
俺自身は呪いは否定している。それでも、これだけ続くと正直怖い。
俺が別れさせ無かったことが原因で、Bの身に何か起こったら。
そう考えると、たまらない気持ちになった。
俺はそれからすぐに、Bに連絡を取った。強引に時間を作らせ、会う予定を入れさせた。
久しぶりに会うBの顔は、見るからに疲れていた。お互い笑顔など無かった。
「Aの事なんだけどさ」
そう切り出した。
Bは俺の話を遮るように、「別れる気はないから」。
その言葉に、俺は次の言葉を見失った。
それでも何とか平静を装いながら、「いきなりそれかよ」。そう言ってBの顔を見た。
Bの目は真っ赤だった。
Bにしてみれば、俺が何の話をしに来たのか、大体は想像ついていたんだろう。
Aの代弁を頼まれて来たのだろう事を。
しばらく二人は黙っていた。
「別れることはもう出来ないよ」
いきなりBが切り出した。
「そりゃそれだけ長く付き合ってたんだから、仕方ないさ」
俺はそう返した。
「そんなんじゃないよ」
Bは続けた。
「子供が出来たんだ。あの人の分身が、この中にいるの」
そう言ってBはお腹をさすった。
俺はその言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。
さらにBは、
「子供が出来たことを彼に伝えれば、もしかしたら病気も治るかもしれない」
涙を流しならBは言った。
その言葉を聞いて、俺は我に返ったのだと思う。
「今のあいつには絶対に教えるな」
その言葉にBは切れてしまった。
店の中だと言うことも忘れて、二人で言い争った。程なく店員に注意された。
それでも口論が収まることはなく、結局話は平行線のまま、店を追い出されてしまった。
店を出て歩きながら、俺はBを説得する方法を考えていた。
歩きながらBに聞いてみた。
「そもそも何年間付き合ってきたんだよ」
「これだけ長く付き合ってきたのに何で今、妊娠するの?」
「避妊はしてたんだろ」
俺自身が疑問に思ったことだった。
さらに、聞きづらい事だとは思ったが、俺は続けた。
「出来たのがわかったって事は、あいつが入院する前にやったって事だよな」
本当にひどい聞き方だ。
Bは答えてくれた。
「今まではちゃんと避妊してたよ」
Bは続けた。Bの話を聞いていくと、俺は寒気を覚えた。
4ヶ月くらい前に、変な夢を見たんだそうだ。3日間、夢は続いた。
最初に見た夢は、会った事もない男性で、何度も同じように「すまない、すまない」と言い続けていたらしい。
会ったことのない人なんだけど、何となくAに似ていたそうだ。
次に見た夢は、亡くなる前に紹介されていた次男だった。
同じように「ごめんね」と何度も言われた。
そして最後に見た夢は、A本人だった。
何度も振り返りながら、手を振っていたそうだ。
その夢を見て嫌な予感がしたらしく、結婚を急がなければと感じたらしい。
以前から、結婚の話になるとAは消極的だったらしく、
いきなり結婚話をしても変わらないだろうと思い、
それなら妊娠してしまおうと考えたそうだ。
でも、妊娠したのがわかる前にAは入院してしまった。
Bはこうも言っていた。
「あの夢は、この事を伝えたかったんだと思う。
だから、子供が出来たことを知れば、必ず直ってくれるよ」
頭がおかしくなりそうだった。
「今日はもう遅いから明日また話そう」と、Bを家に帰した。
その日は一晩中、寝ることは出来なかった。
何が最良なんだろう。
自問自答を繰り返して出た答えは、Bに呪いの話を告げることだった。
翌日は、Bを俺の家に呼んで話すことにした。
こんな話は外では出来るわけもない。体のことも心配だったし。
Bと話をし、すべてを教えてあげた。
何人もの人が死に、そしてAの家族が亡くなり続けていることも。
夢の話や、細かい事もすべて話した。
Bはため息を付きながら、「言えないよね、呪いなんて」。そう言った。
「それが結婚に踏み切れない理由だったんだね」
Bは泣いていた。
俺はBに言った。
「あいつが呪いを信じてる以上、妊娠のことがわかれば、100%堕ろせと言ってくるだろう。
もしBが生む覚悟なら、絶対に言うな」
Bは、「あの人の性格を考えれば言えないよね。でも堕ろさないよ」
涙をこらえながら言うBを見て、俺は泣けてきた。
その後に俺たち二人は、これからのことを話し合った。
人の人生をこれだけ真剣に考えたのは、俺自身初めてのことだったかもしれない。
Aの病が奇跡的に治ってくれれば、どれだけいいだろう。
それから俺は、暇があればAの元に見舞いに行き、Bともよく話をした。
Aの病状は一向に良くはならなかった。
2ヶ月も経たないうちにAは危篤状態に陥った。
持ち直すことなくAは他界してしまった。
俺が駆けつけた時には、すでにAの体からは温もりは消えていた。
Aは、自分が亡くなった後のことをよく考えていてくれた。
Bに保険のことや遺産のこと、俺とBに葬儀のお願いや後の処分方法など。
Bに宛てた手紙。俺とBに宛てた手紙。そして俺に宛てた手紙。
俺とBに宛てた手紙には、もの凄く感謝の込められたものだった。
Bに宛てた手紙も、同じようなものだったらしい。
ただ、俺個人に宛てた手紙は違っていた。
その手紙の内容は、Bに見せられるようなものではなかった。
Aが亡くなって半年ほど経った。もうすぐBは出産する。
無事に生まれてきてほしい。何事も無く成長してほしい。
ひたすらそう願うしかない。
俺は、Aの残した遺言で今も悩んでいる。なんでこんな物を残したんだ。
Aの残した手紙の中には、俺とBの婚姻届が同封されていた。
そしてAの残した手紙。
『Bのお腹に居る子供は俺の子供ではない。お前の子供だ。
だからお前は、責任を取ってBを幸せにしろ。』
Aは、子供が出来ていたことに気づいていたのだ。
だからって強引に俺の子供にするなよ。
お前なりに考えたことだろう。
きっと、呪いの事で頭がいっぱいになっていたんんだろう。
お前の気持ちは良くわかる。でもこれはないだろ。
最後にAはこう綴っていた。
『頼むからBを幸せにしてくれ。頼むからこの願いを叶えてくれ。
もし叶えてくれなければお前を呪う。』
Aの身の回りで起きたことは、偶然だと俺は思いたい。
Aが呪われる必要は、何一つ無かったはずなんだから。
もしかしたら、これは俺自身が招いたのかもしれない。
今までしてきたことの罰なのかな。
追伸
なんだか、救いがない話だな。