埋め込み型YouTubeプレーヤーをVRChatのワールドに張る際の注意点
YouTubeの埋め込み型プレーヤーをVRChatのワールドに設置することについて、こんな方法だったらどうかといった話しをいくつかもらい、方法によって変わり得る部分があると思い、検討してみました。
なお、VR空間内での利用方法は、法律や利用規約等が追い付いていない部分もあり、解釈がわかれうるところだと思います。
ウェブサイトやワールドに動画を張り付ける方法
ウェブサイトやVRCのワールド等(以下「ウェブサイト等」といいいます。)に動画を掲載する場合、まず考えられる方法としては、ウェブサイト作成者が動画をアップロードし、掲載する方法が考えられます。
動画をアップロードする場合、自分で動画の著作権を有していなければ、公衆送信権等を侵害することになるため、著作権者から許諾を得る必要があります。
もう一つの方法としては、既にアップロードされている動画のリンクをウェブサイト等に張ることで掲載することが考えられます。
埋め込み型YouTubeプレーヤーで動画を張ることは、自ら動画をアップロードするのではなく、ウェブサイト等にリンクを張る行為になりますので、こちらにあたります。
本記事では、リンクを張る方法について検討していきます。
リンクの種類について
リンクには様々な方式があり、
「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」経済産業省(令和4年4月)
では、以下のように分類されています。
「サーフェスリンク」:「他のウェブサイトのトップページに通常の方式で設定されたリンク」
サーフェスリンクの例
https://www.youtube.com/
「ディープリンク」:「他のウェブサイトのウェブページのトップページではなく、下の階層のウェブページに通常の方式で設定されたリンク」
ディープリンクの例
https://www.youtube.com/watch?v=MqTIHiSrkB8
「イメージリンク」:「他のウェブサイト中の特定の画像についてのみ設定されたリンク」
イメージリンクの例
https://pbs.twimg.com/media/FTfA8dEacAAjXgQ?format=jpg&name=medium
「インラインリンク」:「ユーザーの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて、リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンク」
例
ツイッター上のリツイート等
「フレームリンク」:「ウェブブラウザの表示部を幾つかのフレームに区切り、フレームごとに当該フレームと対応付けられたリンク先のウェブページを表示させる態様のリンク」
フレームリンクでは、リンク元のウェブサイト中のフレーム内にリンク先のウェブサイトが表示され、URLもリンク元のものしか表示されないため、リンク先のウェブサイトがリンク元のウェブサイトの一部のように見える。
このホームページがというのがあればリンクを張りたかったですが、ちょっと見つけられなかったので断念。
なお、ネット上では、埋め込み型YouTubeプレーヤーはインラインリンクだと思いましたが、フレームリンクとしているものもありました。
埋め込み型YouTubeプレーヤーで動画を張ることの法的意義
埋め込み型YouTubeプレーヤーによる動画の貼り付けは、前記のインラインリンクないしフレームリンクに該当することになります。
いずれのリンクも、原則として公衆送信や複製等には該当しないと考えられているため、埋め込み型YouTubeプレーヤーによる動画の貼り付けも、基本的には著作権の侵害にはあたりません。
なぜならば、ウェブサイト作成者やワールド作成者は動画等へのリンクを張っただけであり、動画のアップロード等をしていないからです。
さらに、YouTube利用規約によっても許諾されている行為でもあります。
しかし、リンクを張るだけだとはいっても、埋め込み型YouTubeプレーヤーで動画を張ることが法律上無制限に認められるわけではありません。
違法アップロードされた動画の場合
前記した考え方からすれば、著作権者に無断でYouTubeにアップロードされた動画を埋め込み型埋め込み型YouTubeプレーヤーで張るのであれば、リンクを張るだけなので、著作権を侵害しないように思われます。
しかし、著作権者に無断でアップロードされたYouTube動画を張り付けた場合、公衆送信権侵害を幇助したとして著作権侵害が認定されるおそれがあります。
インラインリンクの事例で、著作権侵害を認めた裁判例が存在します。
リンクを張るにあたっては、著作権者に無断でアップロードされたものでないかよく確認する必要があります。
動画の全部又は一部を隠して音楽等を再生した場合
同一性保持権や氏名表示権侵害のおそれ
VRCのワールドにYouTube動画を埋め込みつつも、動画が見えないように3Dモデルを配置し、YouTube動画をBGMのように利用することで著作権侵害を回避できないでしょうか。
今までの記載からすれば、YouTubeにアップロードされている公式ミュージックビデオ動画をワールドに埋め込んで、自動再生させれば、BGMとして利用できそうです。
この点については、著作人格権(同一性保持権や氏名表示権)の侵害にあたる場合があると思われます。
これらの判例等からすれば、埋め込まれた動画の見え方が変わる等のことがあれば同一性保持権侵害のおそれが、氏名表示部分が表示されなくなる等のことがあれば氏名表示権侵害のおそれが生じます。
公衆送信権侵害のおそれ
「リンク元から送信されているかの如き誤解がユーザーに生じる場合」は、リンク元(を張った者)が公衆送信権を侵害すると評価される場合があるとの見解が存在します(田村善之「リツイートにシステム上伴うトリミングにより著作者名が表示されなかったことについて氏名表示権侵害を肯定した最高裁判決」WLJ判例コラム第213号)。
この見解によれば、ワールド上で動画を見ることができないようにして音楽を再生した場合は、公衆送信権を侵害するおそれがあると思われます。
利用規約違反のおそれ
YouTubeで動画の
「共有」⇒「埋め込む」とクリックしていくと、「動画の埋め込み」と題するページに埋め込みタグとともに「YouTube 動画をご自分のサイトに埋め込むと、YouTube API 利用規約に同意したことになります」との表示が出てきます。
これにより、YouTube API 利用規約に従わなければなりません。(ただし、動画を埋め込んだことで同意したといえるか議論の余地はありそうです。)
YouTube API 利用規約内の、「Required Minimum Functionality」では、
「Embedded players that automatically play a video should initiate playback immediately when the page loads or as soon as the embedded player is fully visible. However, an API Client must not initiate an automatic playback until the player is visible and more than half of the player is visible on the page or screen.」と、埋め込みプレーヤーの半分以上が画面に表示されるまで自動再生を開始してはならない旨の記載があります。
埋め込み型YouTubeプレーヤーを見られないようにしている場合に自動再生を開始すると、この規約に反するおそれがあると思われます。
また、YouTube利用規約の「許可と制限事項」で禁止されている行為として、
動画の一部ないし全部を見えないようにして利用することは本来的な利用とは異なることから、「改変」であったり、「本サービスのいずれかの部分を迂回、無効化・・・その他の方法で妨害すること」に該当し、利用規約違反になるおそれがあると思われます。
埋め込み型YouTubeプレーヤーをユーザーから完全に見える形でVRChatのワールドに設置すれば問題ないか
基本的に著作権法上の問題は生じない
VRCのワールドに埋め込み型YouTubeプレーヤーを設置しても、前記してきたような著作権ないし著作人格権等を侵害するようなことがなければ、基本的には著作権侵害(公衆送信権・複製権)や著作人格権侵害(同一性保持権・氏名表示権)の問題は生じません。
YouTube利用規約に違反するおそれはある
著作権法上問題がなくとも、前記のとおり、YouTube利用規約に従わなければなりません。
YouTube利用規約の「許可と制限事項」では前記の第1項及び第2項に加え、第9項「9.本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。」に注意する必要がありそうです。
個人的、非営利的な用途以外での利用について
YouTube利用規約「許可と制限事項」第9項では、個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用することを禁じています。
「非営利的」の方については、後記のとおり、YouTubeから若干見解が示されていますが、「個人的」の方については、第9項の例示を除き、YouTubeの見解は見当たりませんでした。
したがって、具体的にどのような用途であれば、利用規約上許容されるかは、利用規約の解釈に委ねられることになります。
なお、学校教育での使用についてですが、次のとおり述べているものがありました。
商用利用(営利的利用)について
YouTubeヘルプでは、商用利用について、広告を含むブログ等であっても禁止されないとされています。
そのため、広告収入を得ているウェブサイト等(広告を設置しているワールド等)にYouTubeの動画を張り付けることは、YouTubeの利用規約上は禁じられていません。
しかし、JASRACでは、広告収入を得て運営されているウェブサイト等に動画を埋め込む場合には、インタラクティブ配信の許諾手続きが必要とされています(JASRACホームページ 「動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」)。
そのため、広告収入を得て運営されているウェブサイト等や広告を置いているVRChatのワールドに、JASRAC管理楽曲が含まれているYouTube動画を埋め込んだ場合、JASRACから請求等があるかもしれません。
したがって、広告収入等を得てウェブサイト等を運営している場合は、JASRAC管理楽曲が含まれているYouTube動画を埋め込まない方が良いと思われます。
ただし、著作権法上問題がない方法で動画を埋め込んだ場合、特にJASRACの利用規約等に同意する機会はなく、YouTube利用規約上も特に記載が見当たりません。著作権等の侵害がなく、JASRAC管理楽曲が含まれた動画にリンクを張ることについての利用規約に同意(契約の内容になる)等もないとすれば、JASRACから許諾を得る必要があるのか疑問が残ります。
個人的な用途以外での利用について
YouTube利用規約「許可と制限事項」第9項の「個人的」とはどのような意味なのでしょうか。
この点について明確に論じた文献等は見つけられませんでしたが、第9項には、「たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません」との記載があります。
「不特定または多数の人のために」の逆、すなわち「特定かつ少数の人のために」であれば、個人的な用途といえそうであり、著作権法上の「公衆」の考え方が参考になりそうです。
著作権法上の「公衆」と同様に考える場合、何名以上であれば多数、何名以下であれば少数と判断できる具体的な基準はなく、種類・性質・利用態様等によって人数が異なるとされているので注意が必要です。
また、実際の視聴者数ではなく、動画の設置者と視聴者との関係性から不特定の人のためと認定されることもあり得るため、注意が必要です。
どのような場合に個人的な用途となるのか
VRChatのワールドに動画を張る場合、どのような利用方法であれば、利用規約上問題ないのか。
個人的な用途と考えらえるケース
・invite onlyのワールドで特定少数の知人を直接誘う
⇒ 特定の限られた少数の人のみの参加であるため
・動画をローカル設定にして、各ユーザーが個々に視聴する
⇒ ウェブサイトに埋め込まれたものを個々に視聴するのと同じ状況といえるため。結局個々に動画の視聴をすることになるため。
個人的な用途なのか微妙なケース
・invite onlyのワールドではあるが、広く参加者を募集
⇒ 実際の視聴者は特定少数かもしれないが、希望すれば誰でも参加できたという点から不特定の人を対象にしたものとされるおそれがあります。
・動画を同期して、あまり参加者を限定せず、複数人で視聴
⇒ 著作権法上の「上映」「公衆送信」ではないですが、不特定又は多数の人に対する上映と類似する状況であるため、不特定又は多数の人を対象にしたものとされるおそれがあると思われます。
実際の対処法
規約違反リスクについて
埋め込み型YouTubeプレーヤーで動画を張るには、動画が隠れたりしなければ、著作権法に反するリスクは少ないと思われます。
動画を張り方等によって、利用規約違反のリスクは残りますが、VRChat(VRSNS)上での利用は、今まで検討されていない部分であると思われ、明確に禁ずる旨が定められているわけではないため、実際に利用規約に反すると判断されるかは分かりません。
そして、利用規約に反するおそれがあるに過ぎなければ、VRChat上でYouTube動画を利用しただけであれば、YouTube側から規約違反を指摘されるリスクは小さいと思われます。
実際、後記のとおり、明確に反すると思われる事例で、大規模に展開されていたサービスであっても、Googleが提供するサービスと競合することになる時期に、規約違反の通知がされているに過ぎません。
規約違反を通知された事例
海外の事例ですが、次のようなものがありました。
Groovyというサービスは、ユーザー数が約2億5000万人おり、YouTubeへの影響も大きいにもかかわらず、2021年8月まで約5年間、Google(youtube)は、Groovyに規約違反の通知をしていなかったようです。
Rythmという同様のサービス(ユーザー数約6億6000万人)に対しても、2021年9月に規約違反の通知があったようです。
その後、Discordで、Youtube Togetherが実装されたようです。
大きなサービスについても、規約違反を指摘せず、自己のサービスが実装される際に競合するサービスを狙い打っているように思われることからすると、仮に前記のような規約違反をしていたとしても、Google(YouTube)が規約違反の通知にまで至る可能性は低そうです。
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