熱燗DJつけたろうさんのワークショップを実践してみたことについて
先日行ってきた、熱燗DJつけたろうさんのワークショップを受けて、最近、毎晩のように燗をつけている。
これまでつけてみたのは
弁天娘 純米酒 鳥姫(抜栓後半年以上)
弁天娘 純米吟醸熟成古酒 玉栄(抜栓後半年以上)
天穏 特別純米酒 馨 佐香錦(抜栓後1ヶ月)
開運 純米吟醸 山田錦(開けたて)
の4本。
つけてみて見えてきたそれぞれの最適と思う温度、味わいについて報告する。
結果、
弁天娘 純米酒 鳥姫:45度くらい
弁天娘 純米吟醸熟成古酒 玉栄:45度くらい
天穏 特別純米酒 馨 佐香錦:60度くらい
開運 純米吟醸 山田錦:70度以上
という結果になった。
これまでフルーティ系はぬる燗で、熟成酒、濃醇系は熱燗でと思っていたが、どうやらそうとは限らないようだ。むしろ、抜栓期間と最適な温度の相関がみられる という仮説がたった。機会を改めて検証したい。
お燗のつけ方は、熱燗DJつけたろうさんのワークショップで習ったやり方によった。
最適な温度については、
低温(45度くらい)
中温(60度くらい)
高音(70度以上)
の3つのタイミングにおおまに区分けして報告する。
以下、酒のプロフィール、温度ごとの味わいの順に詳述する。
弁天娘 純米酒 鳥姫(抜栓後半年以上)
大塚屋酒店にて購入。もともとは、透明な色味の辛口の男酒であったが、抜栓後飲みきるタイミングを逃し、延々と放置されていたもの。少なくとも半年以上、という長期の放置プレイ(池田屋酒店の店主の造語)によって、色味は真っ黄色、味わいは山廃・生酛系もかくやとばかりの濃醇系へと進化した。冷やで飲むと、糠臭さは感じるものの飲めなくはない。明らかにピークは過ぎているが、燗にするにはいいだろうということで、たまに電子レンジで燗にしていた。
ベスト温度は低温(45度くらい)。燗によって、香りが立ち食が進む味になる。45度以上温度をあげると香りがどんどんなくなっていきつまらない味になる。一方で、どんなに温度を上げても糠臭さは残った。高温(70度以上)にしてからの燗冷ましは、自分的には気持ち悪い部類の味。
結論:45度のぬる燗にして熱いうちに飲むべし。
※抜栓直後の弁天娘については、こちらの記事の中段 一口メモ4 弁天娘 の項に詳しい。
弁天娘 純米吟醸熟成古酒 玉栄(抜栓後半年以上)
大塚酒店にて購入。綺麗な熟成古酒。抜栓直後に飲んでみたところ、熟成古酒にありがちな紹興酒っぽさは微塵もなく、ビターチョコレートのニュアンスを含み、軽やかで米の旨みを感じるよい酒であった。上記の 弁天娘 純米酒 鳥姫 同様、抜栓後飲みきるタイミングを逃し、半年以上放置されていた。冷やで飲んでみると、驚くべきことに、それほど味の変化を感じない。抜栓直後のものと飲み比べて見れば、おそらく違いがわかるのだろうが、記憶している味と大きく違っていない。今尚、綺麗 と表現してもいい味わい。熟成していたため空気酸化に強かったということなのだろうか。
ベスト温度は 弁天娘 純米酒 鳥姫 同様、低温(45度くらい)。燗による味わいの変化も、香りが立ち、食が進む方向で同じ。45度以上温度をあげると、弁天娘 純米酒 鳥姫ほどではないが、香りがなくなっていく。もともと綺麗な酒質なので、香りを軽くする必要性を感じない。ゆえに、低温(45度くらい)をベストとした。高温(70度以上)にしても、一定の味わいは残る。燗冷ましも普通に美味しく飲める。弁天娘 純米吟醸熟成古酒 玉栄 は 長期の放置プレイも、様々な温度で燗にすることも対応できるオールラウンドなタフさを持った酒であることが判明した。
結論:どんな温度でもいいが、45度のぬる燗がオススメ。
天穏 特別純米酒 馨 佐香錦(抜栓後1ヶ月)
池田屋酒店にて購入。店主曰く、抜栓してからどんどん味わいが変わっていく、得体の知れない酒。池田屋酒店は、私が日本酒にハマるきっかけを作った 上原浩先生 の薫陶を受けた、日本酒の抜栓後と燗につけた後のポテンシャルにフォーカスしたラインナップを誇る酒屋。(池田屋酒店についてはこちらの記事も参照)私が全幅の信頼を寄せる池田屋酒店店主が 得体が知れない と表現するその酒質とは?
抜栓直後はクリアー かつ まったり とでも表現したくなる不思議な酒質。10年くらい前に同じ酒を同じ店で買ったときはもっと鋭角的な味わいだったはずだが、10年経てば杜氏も変わったし酒質が変わってもおかしくない。不味くは決してないのだが、これを大好きかと言われると微妙な酒質。抜栓直後を燗にすると隠れていたコスモスのような香りと甘みが出る。冷やより燗の方が美味しいがそれでも感動するほどかと言われると、やはり微妙 な味わい。池田屋店主の言葉を信じて、この酒のピークが来るのは少なくとも、抜栓後2週間以降だとあたりをつけて、少しずつ味見をする程度にとどめて、今日まで温残してきた。ときは来た。今こそそのポテンシャルを発揮する時。
冷やで飲んでみると、クリアー かつ まったり という個性はそのままに、香りと甘みが出てきている。分かりやすく美味しくなっている。まさに正統進化。その上で、この酒が好みかというと、やはり微妙。これは私の完全な好みの問題で、フルーティーな香り系より、米の旨味系の味わいを評価する私の選好構造によるもの。フルーティーでスッキリした酒質が好きな人にはとてもオススメです。
ベスト温度は中温(60度くらい)。熱燗DJつけたろうさんのワークショップで、剣菱 黒松 に起こったマジックがここでも起こった。甘みが膨らんで、香りがちょうどいい塩梅に軽やかになって、そのまま飲んでもいいし、食事も合わせたくなる味わい。これは旨い。好みの味。低温(45度くらい)だと開ききっていない。高音(70度以上)だと薄くなりすぎて物足りない。
結論:60度の熱燗で。
開運 純米吟醸 山田錦
クイーンズ伊勢丹で、この酒を売っているのを見つけて衝動的に購入。以前、こちらの記事で、
八海山 純米吟醸 を高級スーパーで買える手軽さと、万人受けする酒質を併せ持った、日本酒の優等生 と書いたけれど、改めなければならない。日本酒業界は東西に並び立つ二つの優等生あり。東に新潟 八海山 純米吟醸 あれば、西に静岡 開運 純米吟醸 山田錦 あり、と。
私は、開運 純米吟醸 山田錦を静岡を体現する日本酒だと思っている。静岡といえばサッカー、サッカーといえばキャプテン翼、キャプテン翼といえば爽やかスポーツマン。そう、開運 純米吟醸 山田錦 は爽やかスポーツマンのような日本酒なのだ。爽やかなりんごのような香り、すっと入って来る米の旨味。フルーティー系でありながらお燗にしても美味しい。その万能な酒質は、優等生と呼ぶ資質あり、と常々思いながら、これまで西荻窪の三ツ矢酒店までいかないと買えないと思い優等生と呼ぶのを控えていたのが、今回、クイーンズ伊勢丹さん、やってくれました。これで、クイーンズ伊勢丹の日本酒布陣マジとんでもないことになっています。新規開拓する気がなければ、日本酒はクイーンズ伊勢丹内でローテーションすれば事足りてしまう。(クイーンズ伊勢丹の日本酒の布陣についても別の機会に書いてみたい)
閑話休題。
抜栓後、冷やで飲んでみる。期待通り美味しい。ただ、数年前飲んでみたときには、味わいにもっと艶があったような。考えてみれば、この間、能登杜氏四天王の一人であられる、波瀬正吉氏が亡くなられたので味わいが変わるのもむべなるかな。むしろ、酒質をよく保てていると考えるべきか。開運 土井酒造は、波瀬杜氏が就任中のときから、米の上げ下ろしなど機械に任せるところは任せ、人にしかできない部分は人が行う、部分的な機械化を進めていることで有名だった。その時からの遺産が現在に残っているのかも知れない。こうした、品質と量産を両立している蔵は本当に素晴らしい。
ベスト温度は高温(70度以上)。軽く煮るくらいでいいかもしれない。フルーティーな香りはほとんど吹っ飛ぶ。代わりに残るのは、隠れていた純粋な米の旨味、甘み。お米がポッと開いたよう。本当に美味しい。逆に中途半端にフルーティさが残っている低温(45度くらい)はあまり好きではない。これも好みの問題で、焼きリンゴや、温めたフルーツケーキが好きならありかも。
結論:70度以上まで上げて、米の旨味、甘みを楽しむべし。
全体のまとめと結論
ここまでみてきたように、抜栓直後は高温で、時間を経過したものは低温で、ピークにあるものは中温で燗をした方が良い という仮説が浮かび上がってきた。これが偶発的なものか、法則と呼びうるものかはさらなる検証を要する。
この仮説の原因として考えられるのは、
1 抜栓後の空気酸化は、燗をした際の日本酒の加熱による化学反応と同じか、少なくとも近い反応である。
2 抜栓後の空気酸化によってできる香味成分は、一様に揮発性が高い。
などであろう。
いずれにせよ、さらになる実験と考察を必要とする。それについては、機会を改めたい。