会津若松散策 part1
二日目の朝。
いつもなら、寒かったり寝心地が悪かったりで睡眠が浅くて日の出前に目が覚めてしまう私。
でも今回は、周りに人がいないという気楽な環境と快適な気温のおかげか、割とよく眠れた。
二度寝したりで、テントの外に出たのは朝の七時を回ったくらいだった。
外を見ると青空ではあるけれど雲が多くて、通り雨が降りそうな気配があった。
ひとまず顔を洗って歯を磨いて、朝食の準備に取り掛かる。
朝食の準備、といってもコーヒーのためのお湯を沸かすくらい。
昨日コンビニで買った惣菜パンとドーナツが、この日の朝食。
今日は猪苗代から会津若松への移動日。
当初は二日目もキャンプをする予定だったのだけれど、温泉に浸かってゆっくりお布団で眠りたい気分になった。直前で会津若松の宿を探してみたところ素敵な民泊を見つけたので、速攻で予約。
会津若松行きの電車はだいたい二時間に一本ほど。
キャンプ場から駅までは歩いて十五分くらい。
撤収時間を考えると、九時台の電車に乗るにはギリギリだった。
次の十一時台の電車に乗ろうと決めたところでちょうど通り雨が降ってきたので、テントの中でのんびり過ごすことにした。
しかし、少々せっかちなところがある私は面倒な撤収作業を早く終わらせたくて仕方がなかった。結局テントの中で少しずつ片付けを始めて、あとはテントを片付ければ完了というところまできてしまった。
まだ電車の時間まで一時間半もあるというのに、結局早々に撤収完了。近くにカフェでもあればよかったのだが、タイミングが悪いことに近場のお店は揃って定休日。こんなことなら、もう少し早く起きて九時台の電車で会津に向かえばよかった。後悔してももう遅いので、とりあえず駅に向かって歩き始めて、到着時間まで待合室で時間を潰して待つことにした。
寂れた無人駅の待合室。ちょうど清掃の人が掃除を終えたところだったけれど、残念ながら快適に過ごせるような綺麗なところではないし、季節柄カメムシが多くてあの独特なツンとした青臭さが私の鼻を突いた。
(そういえば、キャンプ場ではアリやクモくらいしか見なかったので、とても快適だった。)
おそるおそるベンチに浅く腰掛け、足元にあるぺちゃんこに潰れたカメムシの死骸に触れないようにしながら、こわばった姿勢でひたすらユーチューブを見て時間を潰した。(電波があったのが幸い)
そうしてようやく電車到着時間の十分前になったので、待ってましたとばかりにホームに出て、青臭い待合室から解放された私は久しぶりに深呼吸をした。
上戸から電車に揺られて約四十分ほどで会津若松へ到着。
会津若松駅につくやいなや重たいザックをコインロッカーに預けて、今度は会津美里町にある『伊佐須美神社』へ向かうべく只見線に乗り、会津高田駅を目指す。
会津若松から会津高田までは二十分ほど。神社は駅から歩いて約三十分。
ちょうど昼時ということもあり腹の虫が鳴り出したので、神社までの道中良さそうなお店があったら入ろうと電車の中でGoogleマップを探索していると、良い感じのお蕎麦屋さんと地元の食堂があった。
口コミやレビューも参考にはなるが、一番信頼できるのは自分の直感。どれだけ評判が良くても店の前でなんとなく自分には合わなそうだな、と思ったお店に入ることはない。
悩んだ時は、とりあえず店先まで行ってみるというのが私のモットー。
電車には制服を着た学生たちが大勢乗っていた。昼時に学生がいるということはテスト期間か何かで学校が早く終わったのだろうか、などと考えながら学生時代を懐かしむ。あの頃は気づきもしなかったけれど、人生の中の『学生時代』というものはあまりに長く、と同時にあまりに一瞬で、たとえそれが黒ぐろとした思い出のほうが多かったとしても、毎日がキラキラとした黄金期のような時間だったとしても、そのどちらにしてもそれはかけがえのない自分の中の唯一の時代であるのは間違いなく、その時代を終えて十年以上経った今になってようやく、あの時間の価値の重さを思い知った。
”学生”に戻るというのは何歳になってもできるけれど、”あの頃”に戻るということはどれだけお金を積んでもできっこない。
戻りたいか?と問われれば、私は戻りたいとは思わない。
でも、もしも今の自分で戻れるならば、戻りたいと言うだろう。
それで何かが変わるのか、変わらないのかは知る由もないが、少なくとも昔よりは有意義な学生生活を送れる気がする。
自分に自信がなく、周りに流されてばかりいたあの頃の空っぽな自分は最低だった。それに比べると、失敗したり上手くいったりを積み重ねて少しずつ自信を持てるようになった今の自分は好きだ。
うとうとしながら学生時代に思いを馳せていると、あっという間に会津高田へ到着した。
数人の学生たちと共に電車を降りた私は、まず最初にお蕎麦屋さんルートを歩いてみることにした。
誰かが書き込んだ情報によると、店先が植物に覆われていて入口が分かりづらいとのことで、いざ店に着いてみるとその言葉通りだった。
扉が半分くらい開いているのでおそらく営業はしているはず、と思いながら
おそるおそる中にはいってみると人の気配が全くない。
「すみませーん」
と声をかけてみるが返事がない。
なんだか少し怖くなった私は静かに店を出て、お蕎麦は諦めることにした。
あとは食堂ルートに懸けるしかない。それがダメなら、コンビニでおにぎりでも買って食べよう。でもせっかくここまで来たんだからお店で美味しいご飯が食べたい。
Googleマップを頼りに民家の間の裏道を彷徨っていると、なんだかいい匂いがしてきた。(お腹が空いていると、嗅覚も敏感になるのか・・?)
地図を見ると目的の食堂を指す印は私の真横の建物だったが、それはどう見ても普通の民家。
「ここもダメならお昼ごはんは我慢するか・・・」
と諦めかけたその時。
道路に面した通りに出てみると、私が探し求めていた食堂があるではないか。(Googleマップの指していた印が、少しズレていたみたい。)
しかしここも、先ほどのお蕎麦屋さんみたいに扉が半分くらい空いている。
この辺の人はお店の扉を開けっぱなしにするのが普通なのか?などと思いながら、意を決して扉の奥へと一歩を踏み出した。
「こんにちは〜」
すると今度は先ほどとは違って、店の奥から元気なおじさんが登場した。
「はーい、いらっしゃい」
見た感じ、どうやらご夫婦でお店を営んでいるようだった。
店内のメニューは全て手書きで、地元の人達に愛されている食堂というアットホームな雰囲気。幼い頃、祖父母の家に一人で遊びに行った時に感じたちょっとした緊張感と笑顔で迎え入れてくれた温かな空気を思い出して懐かしい気持ちになった。旅先でこういう温かい気持ちになれる場所って、とても貴重だし有難い。
店の片隅に置かれたテレビからはNHKの情報番組が流れていて、普段は見ないテレビの音がこの時は無性に心地よく感じた。
私が頼んだのは塩タンメン。
運ばれてきたタンメンには野菜がたっぷりと乗っていて、スープの濃さもちょうどいい塩梅で、疲れた体にスーッと染み渡る美味しさだった。
ペロリと完食して満腹になった私はガソリン満タン。
次なる目的地、『伊佐須美神社』へ、いざ出発。
つづく