旅、思い立ったが吉日。〜上高地編二日目①〜
朝四時半。
寒さでいても立ってもいられず、朝日を拝もうとテントの外に出た。
空には雲一つなく、まだ日が昇ったばかりの淡い青色をしていた。
そして、眼の前に広がる山々の下半身を覆うように横長に広がる濃霧。
刻一刻と、空は青さを増していく。
日は昇ったものの、まだまだ寒い朝。
出発前に少しでも体を温めたくて、持ってきていたインスタントスープ(無印のひよこ豆とコリアンダーのハリラスープ)を飲んで、カロリーメイトでエネルギー補給。
スープのスパイスが体をじんわりと温めてくれて、心がホッとした。
朝五時半過ぎ、最低限の荷物を持ってハイキングへ出発。
朝一のコースは上高地の左半分側、目指すは田代湿原と大正池。グルっと回って往復で11km、所要時間は3時間ほど。
ほとんど眠れなかったはずなのに、高揚感で体と脳は溌剌としている。
キャンプ場を出て河童橋を越えたあたりで、どんどんと力強さを増していく太陽の光が川面と霧を黄金色に染め、思わず目を細めてしまうほどの眩しさに包まれた。
ここに来て、太陽の有難みをひしひしと感じた。
オフシーズンよりの平日ということもあってか、すれ違う人は時々いる程度。
早朝はクマに注意という喚起を目にしていたので若干ビクビクしながら、熊鈴を鳴り響かせてぐんぐんと勇ましい気持ちで前進する私。
熊鈴は必携と思っていたが、意外と鳴らしてない人のほうが多かったような印象。人に慣れたクマは逆に、鈴の音に引き寄せられて人間を食べに来たりするのだろうか・・・とそんな恐ろしい妄想を脳内で繰り広げながらも、野鳥たちの愛らしい囀りに癒やされつつ、午前六時半頃ようやく田代湿原へ到着した。
濃霧が広がる田代湿原は、ここは天国なのかと錯覚するほどの美しさだった。(天国の景色は知らないが、そう思ってしまうような幻想的な空気がそこにはあった)
素晴らしい光景を拝ませていただいたなぁと、すべてのタイミングに感謝をしながら田代湿原をあとにして大正池へと歩を進める。ここから約40分ほどの道程。
梓川沿いを歩いて、午前七時に大正池到着。
大正池は、焼岳の噴火により一夜にして出来上がった池らしい。
水面に映る穂高連峰がとても美しく、つい見惚れてしまった。
しかしこの池、砂礫や土砂の堆積によりどんどん面積が小さくなっているみたいで、いずれは埋まってしまうことが懸念されているとか。
自然の景色とは移ろいゆくものではあるが、この美しい景色がいつの日か見れなくなってしまうのかもしれないと思うと儚さが込み上げる。
どこに目を向けても美しく、朝から感動しっぱなしの私ではあったが、流石に寝不足の体で午後まで突っ走ることは無謀に思えたので、一旦キャンプ地に戻って一休みすることにした。
帰りは林間コースを通って河童橋の方までひたすら歩いた。
途中、梓川の畔に出た辺りで上高地に来て初の野猿と遭遇。
猿が沢山いるとは聞いていたが、こんなにすぐ会えると思っていなかったので最初は少し驚いた。しかし、帰る頃にはその辺に猿がいても「あら、また会ったわね」くらいのリアクションになっていた。
午前八時半、早朝のハイキングから無事にキャンプ地へと帰還。
太陽のお陰でだいぶ温かくなったテントの中で、少しでも体を休めるべく夢と現実の狭間をウロウロしながら目を閉じた。