哀しみの伝導
妹が死んじゃったんだ。
君の声が私に届いたとき、休み時間の教室の喧騒が一瞬消えた。
困ったことになったよ、そう言う君は10円玉を道に落としちゃっただとかくだらない愚痴をこぼしそうな気軽さで自身の妹の死を告げた。
そうか、それで先週学校を立て続けに休んでいたのか。のどに引っかかっていた小骨がとれた気分で、私は両手で包むようにして持っていた“ほっとゆずれもん”のペットボトルを机上に置いた。
「うん、それで?」
驚きもしなければお悔やみの言葉ひとつもかけない私に君はおかしいなと首をかしげた。君は私が冷静沈着な人だということを知っていてこの話をしたのだと思ったのに、そうではなかったのか。大した理由はなく、左隣の席が私だったからなんだろうか。
「それでって……。それだけ」
タピオカのように潤んだ目を見て、私は君の傷口に塩を塗ることにした。
「妹が死んだくらいで泣く男子高生がいるかよ、シスコンじゃあるまいし」
涙がこぼれないようにしたかったのか、私の言葉に憤りに似た驚きを感じたのかはわからないけれど。君は目を大きく見開いてぎゅっと下唇を噛み、がこんっと音を立てて椅子を蹴るようにして立ち、教室の喧騒に消えた。
「妹さん、亡くなっちゃったのか」
ひとりぽつんとつぶやいて、右手で“ほっとゆずれもん”を持ち上げた。それが置かれていた机に左手で触れると少し暖かくなっている。右手のペットボトルは少しぬるくなっていて、それで“熱伝導”という単語を思い出した。熱量保存の法則がはたらくから、ペットボトルが接触している机は徐々に暖かくなり、ペットボトルは徐々に冷めていくのだ。
もしも、もしも悲しみが。熱放射で熱が移動するようにいつか冷めるものだとしたら。熱のように伝導するだろうか。もしそうだとしたら、今、私が感じている感情は、君が今抱えている感情が伝導してきたのだろうな。
私は“ほっとゆずれもん”を両手で包むようにしてしっかり握って、感情に身を任せた。熱を帯びた涙が一滴こぼれ落ちた。
この感情が私に伝導することで、熱量保存の法則がはたらいて、君の中のこの感情が減っていてほしい。そう無責任に願ってペットボトルを傾けた。
口に含んだ”ほっとゆずれもん”は哀しみの味がした。
〈Fin〉
どうも齋藤です。
久々の現代ドラマです、2020年4月のThe Entertainer以降全く書いていなかったのでもうすぐで1年経っちゃうとこでした、あっぶねー。
900字強書けました今回は。
レモンシフォンのときは1500字書けたのでやっぱ恋愛ものは書きやすいんだなー((?
ちなみにこれ構想思いついたのが約6時間前。齋藤の中ではかなり早いんじゃないでしょうか、書こうと思ってから書き終えるまでが。
言いたいことはいろいろあるのですが、熱伝導の話とかね。
なんだろうな……。
死って不思議だなって思ったんですよ、でもなんて言えばいいのか(笑)
今度Twitterで長文でぐだぐだ書こうかなー()
20190101の話とボンボヤの話がしたいです((暗号
お読みくださりありがとうございました!