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今度は浜松!『婚活マエストロ』は現代のおとぎ話のような物語でした
『成瀬は天下を取りにいく』は、これまで見たことのないようなヒットの推移をたどってきたと思っています。
売上でいったら、過去の本屋大賞受賞作品ではもっと売れた本もあるわけだけど、作家が観光大使になったり始球式に出たりとここまで舞台ごと盛り上がった例は見たことがありません。
ここまで滋賀愛を見せてしまうと、次の本はどうなるんだろう。伊坂(幸太郎)さんみたいに仙台から出ないパターンで行くのか?と本編とはまったく関係ないことを考えていました。
で、開始2ページ目でこの本の舞台が浜松市だということが明かされます。もしかして湖つながりで行くのか?
今回はコタツ記事の量産で日々を過ごすライター(40歳)のケンティー♂が主人公。ふとしたことから絡むことになった婚活事業会社の「ドリーム・ハピネス・プランニング」を舞台に話が進んでいきます。
どう考えても怪しさ満載の会社で彼が出会ったのが、鏡原さんという女性。婚活業界では「婚活マエストロ」と呼ばれている凄腕の女性で、小説のタイトルにもなっているもう一人の主人公。
シニアや男性としゃべったこともないような女性が婚活をしている姿や、様々な婚活パーティーの模様など、まったく縁がなかった婚活の裏事情(どこまでリアルかはわからないけど)も垣間見えて大変楽しく読みました。
そして、取材のために関わり合いになるはずだったケンティーはいつの間にか頼られちゃってスタッフ代行をすることに…
それにしても、この舞台設計は東京みたいな大都市じゃあ成り立たなさそうだし(どこまでも怪しくなりそうで)、かといって過疎地域だと人が集まってくるイメージにならない。そう考えると、浜松という地方都市の設定はなかなかよかったんではないかと思います。
そこから滋賀に日帰りバスツアーに行く話も出てきました。
婚活を商売にしてきた女性と、結婚の可能性も考えたことがなかったような男性のどことなくリアルなやりとりを楽しく読みました。
ストップウォッチの使い方、カウントダウン方式でなく時を積み上げる方式にしているという話のところ、胸にぐっときましたねー
地方のリアルという意味では、裏返せば先行きの見通せない若者たちやシニアたちの話でもあります。でもだれもそれを悲観せず、淡々と日々の営みが行われているというところには救いも感じました。おとぎ話のような小説だったとも言えます。だからこそ「めでたしめでたし」(となっているかどうかはわからないけれど)のあと、この先は書かない方がいいのかもしれません。
そのかわりにちょっとキュートな池田さんを主人公にして、彼女のこれからを描いてほしいな、と思うのでした。