
『カフネ』はお仕事小説でもあると思う
『成瀬は天下を取りにいく』が面白いという声を集め始めたころ、「久しぶりに人が死なないけど感動できる本」とおっしゃってる方がいて、確かにそうだなと思ったものでした。
ここ数年の本屋大賞受賞作は確かに、何らかの死、トラウマと戦っている物語が多く、”楽しい””面白い”という感想を述べられるものではなかった気がしています。
『カフネ』も、折れて傷ついた心との闘いの物語でした。
冒頭から、登場人物たちが弟の死、元恋人の死と向き合っている時期だということがわかります。それを知ったときに「また人が死ぬ話かー」と思ってしまったのが正直な感想です。しかも多分山のようにトラウマや秘密が出てきそうだぞ、と。
それでも読む手を止められませんでした。
主人公の薫子は真面目を取りえとして、そういう生き方をしていることに自信を持っていたような人でした。正論をまっすぐ言い、努力の末だということを隠さないそんな人、リアルな世界にもいっぱいいそうです。彼女にとっては自分のつまずきも汚点の一つだったのでしょう、自家中毒を起こしたように自らを蝕むようになっています。
そんな彼女が出会ったのが、弟の元恋人だったせつな。かなりな変わり者として描かれた女性は家事代行サービス「カフネ」の凄腕料理人。でもどうも人との距離感が変わっていて、必要以上にぶっきらぼう。
ぶっきらぼうだけれど、彼女のつくる料理、特に問題を抱えた家庭をヘルプする仕事の中で、依頼者の状況を思いながら作る料理からは、日頃の態度からは想像できないほどの愛情を感じます。
『カフネ』のすごさはこの料理描写でした。美味しそうな描写がそのまま心に残り食べたくなると同時に、料理によって人が動かされていくことがはっきりわかるのです。
読み終わった人と、どの料理が心に残ったか語ってみたいです。私はポップコーンを作ってみたくなったなー
薫子は「掃除が得意」という特技をもっているため、薫子をある面で助けることになっていきます。そしてせつなも大きな傷を抱えていて…というお話。
問題を抱えた人たちがまず目に飛び込んできますが、私はこの本は「お仕事小説」としても読みました。
女性だけでなく男性だって社会に出れば色々あるし、その色々は努力だけで乗り切れるわけではありません。でも、だからこそ矜持を持ってできる仕事は最大の武器になり得るのだ、とそんなことを働く彼らを見て改めて思ったのでした。