自分の生きている場所のことを改めて考えたくなる『藍を継ぐ海』
昨年『宙わたる教室』を読んでいたく感動しました。「なんで10月になんて出すのよ。もっと早く出版して、色んな人が読んだら本屋大賞にノミネートされたかもしれないのに!」と他社の出版計画にケチつけたくらいに感動した1冊だったのです。
こうやって心動かされた人は多かったようで、すでにNHKのドラマになりまた多くの人に届いていますね。ほんとに嬉しい。
この『藍を継ぐ海』は短編集で、どれも辺境であることが強調された地域を舞台にした小説が綴られています。地域ならではの土や海、空の事が科学の視点を通じて語られていきます。
過疎、過去の開発の失敗。ミステリやサスペンス小説だったら、おどろおどろしい密室とか過去の因縁とか旧家とかが出てきそうな場所ばかりですが、そこに残った何らかの軌跡や証拠から、過去や未来が再現されていきます。そこに「科学」があります。
これを執筆するにあたってはものすごい取材、そして文献の読み込みがあったのだと思います。調べたものすべてを書いてしまいたくなるだろうに、それが短編の中に収められているのです。いつもの事ながらそれがすごい。
そして読者は、目の前にあいた窓から、そのことについての深い裏側を見ることになります。
奥行きが深く、旅に出たくなるような小説でした。