読書日記:『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』
正しい道が綺麗に舗装された道だとは限らない、どちらかというと茨の道なんだろう。とそんなことを思い読み進んだ本でした。
「科学捜査」については、ケイ・スカーペッターやリンカーン・ライム、あとはもちろんCSI…といったものに夢中になったクチなので、それに比べると日本は(スタイル含めて)地味だなあという印象がありました。とはいえ、科学捜査が行われている事も聞こえてはくるので、”日本にもこういう組織があって、そこではこんな事例があって、という科学を交えた自伝的な内容”なのだろうなと思ってページをめくると地下鉄サリン事件の一報が入ったところから話が始まります。 他にもいくつかの事件が取りあげられていますが、とにかくこのサリン事件を巡る話が臨場感、緊迫感、そして驚きが段違いで面白かった!
未知の薬物、まだ科学を使った捜査を行う体制すら整えられていないなかで奮闘する著者&周囲の捜査官の姿には警察小説を読んでいるような興奮をおぼえました。ここからぐっと引き込まれて一気読みでした。
サリン後はどちらかというと組織との戦いの話になっていきます。理不尽に行われる人事の話やそこでの悔しい著者の思いの吐露部分などは、どちらかというとビジネス小説好きにすすめたい内容ですし、著者と一緒になって悔しがったり喜んだり出来るものになっているはずです。そして、こういった人たちの積み上げがいくつもの事件を解決してきたし、事件を解決できる組織&システムを作り上げてきたんですね。
あとがきに後藤田五訓が引用されています。
一、出身がどの省庁であれ、省益を忘れ、国益を想え 二、悪い本当の事実を報告せよ 三、勇気を以って意見具申せよ 四、自分の仕事でないと言うなかれ 五、決定が下ったら従い、命令は実行せよ
何度か目にしたことのある言葉ですが、これほど胸を打った事はありません。今まさにコロナと前線で闘っている人たちにもこうやって戦っている方が何人もいるに違いない、と思いを馳せたのでした。
==おまけ==
ほぼ同時期に出ている『完落ち』の他『マトリ』などの他ジャンルの捜査官もの、昭和の未解決事件モノなどの本を読まれている方が多く手にとっているようです。が、個人的に一番の併読オススメ本は今野敏の「隠蔽捜査」シリーズ。こちらはフィクションですが、この登場人物たちとハラさんの絡みを見てみたくて仕方ありません。