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世界を覆う不幸を和らげる物語も、分断を避ける物語もあるはず。『楽園の楽園』


世の中の技術が進むにつれて書きづらくなったジャンルというのがあります。ケータイが普及してすれ違いの物語をつくるのが難しくなった、とか、そんな感じ。
コンプライアンスが厳しくなりすぎて現代小説では色んな事をしづらくなった、なんてのもありますね。
そういったすべてに挑戦し続けるのが物語であるべきなのでは、と個人的には思っていますが、そんな簡単なものではないのでしょうね。

技術進化によって書きづらくなったものの一つが「ユートピア」でしょう。SF思考という言葉がありますが、SF作家の描く未来は壮大で、その世界を夢見て技術者になった、というエピソードは枚挙にいとまがありません。
が、最近はそんな未来を読むことが減りました。出会うところディストピアものばかり。(私が読むもののせいかしら)

伊坂さんの新作『楽園の楽園』
伊坂さんの描くユートピアはどんなものになるのか、オビからPOP、記事にいたるまですべての情報をシャットアウトして読み始めました。

西遊記でした。

デビュー以来「なかなか仙台から出ない」と言い続けていた伊坂作品。ついに西方浄土を目指すようになったのか、と古くからのファンとしては変な感慨を持っております。
書店で手に取って本の薄さにおののきましたが、ここに人間の旅路が凝縮していて、世界を今襲っている混乱や世界を今覆おうとしている人工知能など多くのものが詰まっていました。
読み始めればさっと読めると思うので、あらすじは割愛。

彼らがたどり着いた場所が果たして本当に楽園だったのかどうか以上に、伊坂さん本人も書かれていますが
「人はどんなものにも物語があると思い込む。きっとあなたもそのひとり」という点が楔のように胸に響いています。

だとするならば、世界を覆う不幸を和らげる物語もあるはずだし、分断を避ける物語もあるはず。
SFが描いた世界に憧れた技術者が多くの発明を生み出したように、社会を変えるストーリーを世の中に広めていくのが我々の仕事なのかも、とそんなことをぼんやりと考えています。

とにかく!SFは世の中を救うので、業界関係者総出でSF復興すべきですよ。

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